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2021.01.21

たわみやねじれも正確に! ケーブルに特化したビジョンセンサー【後編】/クラボウ

お互いの技術を補完

クラボウの北井基善課長補佐

 両社が出会ったのは、2019年に開催された「2019国際ロボット展」(iREX2019)。セイコーエプソンはもとより、クラボウもクラセンスのニーズ調査のためにiREX2019に出展した。
 小間ではフラットケーブルの挿入システムもPRしたが、環境メカトロニクス事業部技術開発部商品開発課の北井基善課長補佐は「フラットケーブルの挿入作業では『つかむ』と『差し込む』の2つがポイント。クラセンスを使って『つかむ』の部分には対応できたが、わが社の技術だけでは『差し込む』の部分がうまくできなかった」と明かす。

 こうした課題意識を持ちながらiREX2019の会場を回り、エプソンの小間にも立ち寄った。そこで目にしたのは、ロボットがフラットケーブルをつかんでコネクターに挿入するデモだった。実はエプソンも、コア技術である力覚センサーの具体的な活用事例の一つとして、2Dビジョンセンサーを使った挿入システムを展示していたのだ。
 「『差し込む』の部分に独自の力覚センサーを使っていると分かった。お互いの技術を補完できそう、と直感的に思った」と北井課長補佐は語る。

セイコーエプソンの小林誠課長

 一方、エプソンもフラットケーブルの挿入作業の自動化に関し、課題意識を持っていた。

 同社はこれまで、自動化が難しい領域に挑戦することで新たな市場を切り開き、競合他社との差別化を図ってきた。現状は人手でしているケーブルの挿入作業を自動化できれば大きなビジネスチャンスになると見込んで技術開発に取り組んだが、「わが社には2Dビジョンセンサーしかなく、『つかむ』の部分で困っていた」とロボティクスソリューションズ事業部RSエンジニアリング部の小林誠課長は振り返る。「クラセンスを見て『これだ』と思った。初めて見た時の驚きが今も鮮明に残っている」とも話す。

 また、エプソン販売(東京都新宿区、鈴村文徳社長)で代理店向けの営業を担当するFA営業部FA技術課の安田光一エキスパートも「クラセンスと自社製品を組み合わせれば、良い自動化ソリューションになると確信した。営業的な目線で見ても、わが社の技術が表に出る機会が増えると感じた」と説明する。

  • エプソン販売の安田光一エキスパート

  • セイコーエプソンの上田淳也さん

実用的な生産設備を

約9カ月で開発したフラットケーブル高速挿入ロボットシステム

 それぞれの要素技術を補完し合えると判断した両社は、iREX2019の会期中に打ち合わせを進めた。クラボウ側は北井課長補佐が、エプソン側は小林課長と同部の上田淳也さんがそれぞれ中心となり、フラットケーブル高速挿入ロボットシステムの開発を始めた。

 上田さんは「クラセンスがケーブルを認識し、つかむ位置の座標値をロボットに指示する必要があるので、まずはロボットの座標軸とクラセンスの座標軸を合わせるキャリブレーションの作業に力を注いだ。初めは座標軸が合わず、ロボットが変な方向に動くこともあった」と述べる。
 試行錯誤を重ね、約9カ月の開発期間を経てシステムの完成にこぎ着けた。

開発を担当したクラボウの北井課長補佐(左)とエプソンの上田さん

 クラボウの北井課長補佐は「これまで多くのデモシステムを製作してきたが、あくまでデモ。実際の現場のことをほとんど知らなかったが、ロボットメーカーで電子部品メーカーでもあるエプソンから、実用的な生産設備を作る上でのノウハウを助言してもらえたのは大きな収穫」と手応えを語る。
 エプソンの小林課長も「わが社には生産設備を開発する部署があり、ロボットもビジョンセンサーも実際に使用している。ユーザーとしての立場からもクラボウに助言し、システムの完成度を高めた」と言う。

 エプソンは現在、自社製のロボットを社内で活用して自動化を推進する取り組みに力を入れている。上田さんは「クラセンスの強みを生かせる工程も中にはあるので、今後はクラセンスの技術情報を社内で共有したい」と話す。

――終わり
(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)



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