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2019.02.12

[特集SIerになろうvol.0]これほどの成長産業は他にない

産業用ロボットがあらゆる産業から注目されている。ロボットは周辺機器や他の設備などと組み合わせてシステム構築しなければ使えないが、そのシステム構築を担うシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の数が足りていない。成長が確実な産業で、需要は増えるが担い手不足。新規事業を模索する企業にとっては、SIer業界参入の絶好のチャンスだ。
そこで「robot digest(ロボットダイジェスト)」では、工場自動化(ファクトリーオートメーション、FA)の専門誌「月刊生産財マーケティング」編集部とタッグを組んで、「SIerになろう」と題した総力特集を実施した。


SIerって何?

 「SIer」――。システムインテグレーションの頭文字SIに、「~する人」を意味する英語の接尾辞-erを付けた造語だ。
 少し前まではITシステムを構築する事業者を指すことが多かったが、最近はロボットシステムを構築する事業者を指すことも増えた。
 少子高齢化により人手不足が深刻化する中、あらゆる産業で一層の自動化が求められている。汎用性が高く、さまざまな作業を自動化できる産業用ロボットは、日本の産業界の救世主と言える。しかし、産業用ロボットが普及する上でボトルネックとなりかねないのがSIer不足だ。
 ロボットは単体だけでは使えない「半製品」と言われ、各種周辺機器や他の設備と組み合わせることで初めて稼働できる。そのシステムを組むSIerが足りていない。

新規参入のチャンス

 需要は急拡大が見込めるが担い手がいない。これは新規参入の絶好のチャンスだ。
 ロボットを据え付けて他の設備や周辺機器と組み合わせ、各種設定や調整をし、ロボットのプログラミングまでこなす。SIerには機械と電気の両方の技術が必要で、参入のハードルは低くないが、業務内容は製造業の生産技術部門に近い。製造企業の生産技術部門や工作機械などの設備機械メーカーならば十分参入を狙える。
 現在のSIerの多くは、各地域の専用機メーカーや、元はロボットのユーザーだった企業の生産技術部門であり、部品加工会社などの生産技術部門や機械メーカーが参入できない理由はない。

 ロボットに関するノウハウは新たに積む必要があるが、政府はシステムインテグレーションができる人材を2016年の1万5000人から、20年に3万人まで倍増させる方針で、助成事業で整備した研修施設も各地に増える。

裏方から花形へ

昨年7月のSIer協会の設立総会では、設立時の会員数が目標を大きく上回った

 ロボットシステムは顧客に合わせて現場ごとに個別に設計し、構築しなければならない。ありていに言えば「手間がかかる割にもうからない仕事」で、大企業はあまりやりたがらず、地場の中小企業がその役割を担ってきた。スポットが当たる機会もあまりなく、SIerはこれまでロボット産業の裏方だった。

 今、その状況が変わりつつある。昨年7月に、SIer業界を代表する団体としてFA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会、会長・久保田和雄三明機工社長)が日本ロボット工業会(会長・橋本康彦川崎重工業取締役)内に設立された。設立前は会員100社を目指していたが、設立時の会員数はSIer会員123社、協力会員21社の計144社と目標を大きく上回った。その後も加入申請は止まらず、現在会員は180社を超える。
 SIer協会では、SIerの事業環境の整備などに取り組む。例えばシステム構築の工程管理のための業界標準「導入プロセス標準」の周知などを図る。どの段階で顧客と詳細な合意形成をすべきかなどを定めることで工程後半での修正を減らし、利益を確保できるようにする。

 日本ロボット工業会の橋本会長は、SIer協会の設立総会時に「ロボットメーカーとSIerはロボット産業の発展にとって『車の両輪』」と述べた。
 経済産業省ロボット政策室の石井孝裕室長は当サイトの対談で「ロボットはシステムを作って終わりではなく、稼働中にいかにして新たな価値を生み出していけるかが重要で、それを担えるのはSIer」と期待を込める。
 SIerはもはや裏方ではない。メーカーや行政からも期待される、ロボット産業の花形だ。

数少ない成長産業

 本特集では、SIer協会の久保田会長にSIerの現状や「SIerとは何か」を聞くとともに、金属加工業界からSIerに参入した企業、工作機械などの業界からSIerに参入した企業の事例を取り上げる。SIerと一口に言っても非常に多様性に富み、各社はそれぞれ自社の技術的な強みを生かした展開をしている。
 また、SIerへの参入を支援する全国各地の研修施設や、SIerの負荷を軽減するロボットなども紹介する。
 日本ロボット工業会やSIer協会などで要職を務める小平紀生氏のインタビューも掲載する。製造企業の生産技術部門や機械メーカーらがSIerになることは特別なことではないと分かるはずだ。
 これらの記事を約1カ月間にわたり順次掲載していく。

 人口が減少傾向にあり、消費者に物が行き渡った成熟社会の日本で、SIerは数少ない成長産業だ。急速な需要増加が見込める市場を前に、指をくわえて見ている理由はない。

(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)

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