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2019.02.17

[特集SIerになろうvol.5]製造業からSIerへ【その3】/田口鉄工所

産業用ロボットを周辺機器や他の設備などと組み合わせてシステム構築する、システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)への製造業からの参入が相次ぐ。昨年7月にFA・ロボットシステムインテグレータ協会(会長・久保田和雄三明機工社長)が日本ロボット工業会内に設立され、会員数は180社を超えた。成長が確実といわれ、需要は増えると見込まれるSIer。製造業から参入しただけに、顧客の製造業者の現場を知り「悩み」や「苦労」も分かち合える。[特集SIerになろう]のvol.3-5では、新規参入を検討する企業にとってアニキ分とも言える先輩企業3社の取り組みを聞いた。

変化に対応する中小企業向け

「製造現場をよく知っていることが自社の強み」と田口頼之取締役

 産業用ロボットの減速機部品を製造する田口鉄工所(岐阜県大垣市、田口泰夫社長)は、2016年からロボットSIer事業に参入した。前出の戸苅工業ヒロテックと違い、言わば「ロボット業界の身内」とも言える業界からの参入だ。バリ取りなどの補助機能を持たせたロボットシステムを提案する。現在はまだ準備段階で実績はないが、19年から本格的に始動する。同社のシステムは、工場が24時間365日稼働する完全な自動化ではなく、作業者の補助をしたり、一部の作業を無人にすることで、コストを抑えながら人手不足を解消できる中小企業に向けた提案だ。
 また「現場の作業者でも簡単に動作の変更を指示できる仕組みにしたい」と田口頼之取締役は話す。そこには自社での経験が深く影響している。
 田口鉄工所の工場にも、人手不足の解消や生産性の向上を目指し、ロボットを取り入れた。しかし、加工物や加工の内容の変更があった時に、専門的な知識がなければSIerの組んだプログラムを変更できないことが分かった。その経験から「中小企業のほとんどが多品種少量生産で、システムの変更が必要になる。そうした時に、現場の作業者が簡単に操作できれば、時間もコストも削減できる」ことに気付いた。実際にロボットを使って部品加工をするからこそ、同じような中小企業の課題が見え、必要な加工補助具(ジグ)やハンド、適切なロボットの設置場所などが分かる。
 参入した当初は、ロボットの取り扱いから学んだ。自社で賄えない部分は、専門の企業と協業することで補い、一つのグループとして活動できるように準備を整えた。会社内でロボットSIer専属の社員は3人で、まだ売り上げにもつながっていないが、今年中には受注できる段階までレベルを引き上げる考え。

まずは実習付きロボスクール設立

自社工場でもロボットを導入して省人化する

 田口鉄工所は、中小企業の省力化に役立つロボットシステムの導入を目指す他に、産業用ロボットの導入や稼働、メンテナンス、オペレーター教育をする加工現場の作業者に向けたロボットスクールの設立にも力を入れる。産業用ロボットを取り扱う場合、安全対策や操作方法などを正しく理解してから使用しないと事故につながる可能性がある。そのため、作業者は「特別教育」を受ける必要がある。
 そこでロボットSIerの高丸工業(兵庫県西宮市、髙丸正社長)と提携し、基礎知識などの講習やロボットを操作する実習を受けられる「ロボットテクニカルセンター(RTC)東海」を今年2月、田口鉄工所の赤坂工場内に開講する。RTCは、高丸工業が主催するロボットセンターで、すでに兵庫と東京に拠点がある。「ロボットが工場で活躍できる環境を整えるため、RTC東海を6月までに軌道に乗せたい」と田口取締役は意気込む。
 紹介した3社はSIerへの参入経緯も三様で、参入後の取り組みも三様だ。製造業からのSIer参入で、製造現場の悩みや苦労が分かりあえる点は共通していると言える。それこそがまさにSIerとしての強みで「先輩」から「後輩」への的確な助言も期待できそうだ。

――終わり


(ロボットダイジェスト編集部 渡部隆寛)



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