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2025.05.14

連載

[注目製品PickUp! vol.82]結露対策を施した食品工場向けのAMR/GEクリエイティブ「YL-250F」

GEクリエイティブ(名古屋市東区、畠山丈洋社長)は総菜や弁当などを製造する食品工場向けに自律走行型搬送ロボット(AMR)を開発した。冷蔵庫や冷凍庫などの低温環境と常温環境をまたいだ搬送が可能で、動的な環境でも自己位置を高精度に推定できる。

冷蔵庫や冷凍庫で使える

 自動化が進まない製造現場の一つに食品工場がある。GEクリエイティブは今年3月、総菜や弁当を製造する食品工場向けAMRの開発を発表した。
 
 開発したのはパレット(荷役台)を搬送する「YL-250F」と、「ドーリー」と呼ばれる取っ手のない台車をけん引する「YT-350F」の2タイプだ。製造ラインからエレベーターを経由し、冷蔵庫や冷凍庫、出荷場への搬送作業を自動化できる。

迷子にならない

結露対策が施されたYL-250F(=写真右)とYT-350F(写真は全て提供)

 走行方式にはカメラで自己位置を推定する「Visual SLAM(ビジュアルスラム)方式」を採用した。食品工場では通路にパレットがランダムに積まれ、作業員が頻繁に出入りする。そのような動的な環境でも、AMRが高精度に自己位置を推定できるのが特徴だ。
 越後巧アイキューブテクノロジ事業部部長兼事業企画課課長は「ビジュアルスラム方式は環境の変化へのロバスト性(耐環境性)が高い。その他の走行方式と比べて自己位置の誤認識を抑制でき、工場内でAMRが迷子になるのを防げる」と説明する。

食品工場では至る所にカゴなどが積まれている

 また、AMRは製造ラインと冷蔵庫や冷凍庫を行き来するため、気温差で生じる結露への対策も欠かせない。越後部長は「AMRに搭載しているカメラに結露ができて曇ると、走行不能になってしまう」と話す。
 同社ではAMRの機内温度を一定に保つ独自構造で、結露を防ぐことに成功。両機種ともに-25度の冷凍庫と常温環境の往来を難なくこなせる。

システム構築も自社で

YL-250Fはエレベーターと連携して各階に移動できる

 同社は昨年、日本惣菜協会(会長・平井浩一郎ヒライ社長)が主導するプロジェクトに参画したのをきっかけに、本格的に食品工場向けのAMRの開発に取り組み始めた。同協会は経済産業省の事業である「令和6年度革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に採択され、複数の協力企業とともに総菜業界向けの自動化システムの開発や現場実装を目指している。

 越後部長は「総菜や弁当の製造現場に潜在的な搬送の自動化ニーズがあるのは確か。しかし、食品工場特有のさまざまな課題があり、自動化が進んでいなかった」と語る。

 本事業ではAMR本体の開発に加え、弁当の盛り付けラインからエレベーターを経由して、冷蔵庫や冷凍庫に製品を自動搬送するシステムを構築した。
 越後部長は「わが社では国内でAMRを製造しており、搬送システムの構築から据え付け、アフターサービスまで自社で一貫して提供できるのが強み」と力を込める。

AMRをインターネットで

「導入しやすいAMRを提供したい」と意気込む越後巧部長

 GEクリエイティブは2016年に創業し、基幹システムやソフトウエア製品の開発などを手掛けてきた。17年に新事業の創出を目指すエムジーホールディングス(名古屋市中区、森田隆博社長)の傘下に入ったのを機に、22年にAMR事業に参入。同じくグループ企業で無人搬送車(AGV)の車体開発にノウハウを持つ東邦大信(名古屋市港区、田辺康宏社長)と共同でAMRやAGVを開発した。23年にコンセプトモデルを発表し、24年に発売にこぎつけた。

 製品開発でこだわるのは簡単に使える導入しやすいAMR だ。複雑な周辺機器との連携や上下の昇降機能などを省き、シンプルな横移動に絞った。その特徴からブランド名を「YOKOIDO(ヨコイドー)」と名付け、さまざまなAMRをラインアップする。

 ゆくゆくはAMRのインターネット販売を目指すという同社。越後部長は「お客さまがインターネットでAMRを購入し、設定から運用まで自分でできるのが理想。導入しやすいAMRを提供することで、潜在的な自動化ニーズを持つ中小企業の自動化に貢献したい」と展望を語る。

(ロボットダイジェスト編集部 平川一理)

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