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2019.12.10

連載

[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.9]学術と産業をつなぐ 、理事を経て学会長に【前編】/小平紀生

過去には日本ロボット学会の第16代会長(2013~14年)を務め、現在も日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長など、ロボット業界の要職を数多く務める三菱電機の小平紀生氏。黎明(れいめい)期から40年以上もロボット産業と共に歩んできた同氏に、自身の半生を振り返るとともに、ロボット産業について思うところをつづってもらった。毎月掲載、全12回の連載企画「随想:ロボット現役40年、いまだ修行中」の第9回。三菱電機の主管技師長になり、社外の役職を引き受け始めた小平氏。2008年には日本ロボット学会の理事に就任した。

学会活動に復帰

ロボット学会の会長としてイベントにも参加した(日本ロボット学会提供)

 前回は主管技師長時代に社内で担当した業務を紹介しましたが、社外の役職も片っ端から引き受けました。そもそも三菱電機の技師長制度では、官公庁、関連学術団体や業界団体への積極的な関与が任命要件として明記されているため、これも仕事のうちなのです。

 その一つが、日本ロボット学会の役員です。2007年の秋口にある客先の研究開発部長から理事就任の要請を受けました。「実際のロボット事業を熟知した役員を求めているので、引き受けてもらえないだろうか」という電話でした。技師長制度上、断る筋合いではないので、受諾を即答しました。当時は1期2年だけのつもりで、まさか会長まで務めることになるとは全く想像もしていませんでした。

 日本ロボット学会の会員番号は1026番。実は1983年にロボット学会が設立された年に入会した古参会員です。研究所時代は学会発表などもしましたが、92年に事業部門に異動してからは、退会はしなかったのですが学会活動は全くしていませんでした。

産ロボ研究の重要性

 ロボット学会が設立されたのは83年ですから、「ロボット普及元年」の80年からそれほどたっておらず、当初は産業用ロボットの研究が中心でした。

 しかし90年代後半にホンダのASIMO(アシモ)やソニーのAIBO(アイボ)が登場して学会の流れが変わりました。大学の研究室では2足歩行ロボットやサービスロボットなどに重点が移り、産ロボ研究は目立たなくなりました。
 しかし、工学研究は最終的には社会の役に立つものでなければならず、その目的に直結する産ロボの研究がおろそかになっていいわけがありません。実際のロボット事業を熟知した理事として指名された私への期待はここにあるわけです。

 当時の第13代会長は東京大学の佐藤知正教授(現名誉教授)で、副会長はファナックの榊原伸介さん(現常務理事、第14代会長)。もう一人の副会長は、40年ほど前に私がロボット開発に着手したころに参考にした博士論文の著者だった東北大学の内山勝教授(現名誉教授)です。

雑用理事の組織運営改革

 学会理事としての私の立場は庶務担当理事で、会長副会長の補佐役でした。要は雑用担当で特定の定型ミッションは持っていないので、自由度の高い役回りです。

 引き受けていたのはほとんど、学会運営体制の強化整備でした。最初から気になったのは、学会活動がいかに一部の先生のボランティアに頼りすぎているか、という実態です。
 例えば、ホームページの制作や運営が一人の先生のボランティアで、更新一つとっても先生のご苦労次第。ここは学会としてのインフラ構築のため特別会計起業費を確保してサイトを製作し、一般会計予算で品質保証も含めた委託管理をするのが正解です。もちろん費用がかかるのですが、一流大学の先生の人件費よりは安いはずです。
 組織運営上は収入を貯金感覚で貯めるのではなく、立ち上げ時に掛かる起業費と一般会計を分けて計画的に使うことも必要なわけです。

 地方からの出張旅費の支給もありませんでしたが、これは一般会計です。若手の先生は九州から自腹で飛行機を使って学会の委員会に参加するような事態があるわけです。学会活動は営利活動でも、慈善活動でもありません。旅費交通費で赤字負債を抱えるようであれば、活動そのものに問題があるわけですが、支給基準や委員会の招集責任を明確にすることにより無事、一般会計化できました。

 2年間、自由度の高い庶務理事として、気になることを片っ端から解決すべく、かなり出しゃばりましたので、任期終了時にはそれなりの充実感と、肩の荷が下りた安堵(あんど)感がありました。

――後編へ続く
(構成・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)



小平紀生(こだいら・のりお)
1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。

※本記事は設備材やFAの専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。

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