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2019.07.12

連載

[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.4]初めての国際学会で教示レス技術など発表【前編】/小平紀生

過去には日本ロボット学会の第16代会長(2013~14年)を務め、現在も日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長など、ロボット業界の要職を数多く務める三菱電機の小平紀生氏。黎明(れいめい)期から40年以上もロボット産業と共に歩んできた同氏に、自身の半生を振り返るとともに、ロボット産業について思うところをつづってもらった。毎月掲載、全12回の連載企画「随想:ロボット現役40年、いまだ修行中」の第4回。近年注目を浴びるロボット関連の研究テーマには80年代から研究されてきたものも多く、「産業用ロボットの開発に着手した頃に生まれた長女はとっくに独り立ちしているが、ロボットの方はまだまだ課題山積」と小平さんは言う。

理想と現実のギャップ

 ロボット開発に着手した頃から、産業用ロボットの研究員として国内外の論文や文献をリアルタイムで注視し、現状のロボットをいかに一人前にするかがミッションでした。
 ロボットの制御上の課題はまず、機械をぴたりと思い通りに制御することです。そもそもアーム型のロボットは剛性の低い機械で、先端がたわむ、動かすと振動する、指定した点をちゃんと通らずにオーバーランする、など厄介な機械です。
 これらの問題についても1980年以前から議論されており、機械の動的特性を補償(指令とのずれを相殺すること)して正確に軌跡を描いたり振動を抑えたりする方法は提案されていました。
 もちろん今のロボットは当たり前にそうした補償計算をしているわけですが、前回話題にしたように80年代初期のロボットコントローラーで採用したのは8ビットのプロセッサーです。指令位置にロボットを動かすためにモーターを何度回転させるか、それを計算するだけで手一杯でした。

産学で制御を研究

 ロボット制御上の2番目の課題は、プログラミングです。ごく初期の産業用ロボットでは現物で教えたとおりに再生する「ティーチングプレイバック」、要はロボットの位置と姿勢のデータ列としてプログラムを作り、それを順に再生するという方法で制御していました。しかし、状況に応じて経路を変えたり、ハンドやツール(アーム先端に付ける作業道具)の制御が当然必要で、プログラミング言語やプログラミングツールの開発も80年代のロボット研究の焦点でした。
 さらに知覚制御や知能化についても80年代には盛んに議論されています。例えば83年に設立された日本ロボット学会の学会誌の第1号は各種サーベイ(研究の現状をまとめたもの)で構成された設立記念号ですが、第2号の特集テーマは「マニピュレータのメカニズムと制御」、第3号は「二足歩行ロボット」、第4号は「視覚」。84年の特集は「音声」「ロボット言語」「車輪型移動ロボット」「ロボットアクチュエータ」「触覚センサ」「知的制御」と続きます。
 大学などでの研究が中心ですが、産業側からも「ここまでできた」という紹介がうまく組み込まれています。理想とする技術と現実のギャップを踏まえつつ、産業初期の産学連携の足跡を残しています。

結婚して長女が誕生

社内の運動会で娘と

 私が産業用ロボットの開発に着手した頃は、プライベートにも大きな変化がありました。ロボット開発に着手した79年に東京都立小山台高校時代の同級生と結婚し、80年に長女が誕生。長女が生まれた日は東京に出張中でした。
 精密工学会の学術講演会でロボット技術の情報を収集して、その後大学時代の友人と会食しながらの情報交換中に「生まれそう!」との連絡。急いで新幹線とタクシーを乗り継いで兵庫県尼崎市の産院に到着すると、ほぼ同時に無事誕生という顛末(てんまつ)でした。
 ということで、私の中では長女と産業用ロボットは同年齢なのです。しかし長女はもはやアラフォーで、さっさと手が離れましたが、ロボットの方はいまだに悩みのタネ。

――後編へ続く
(構成・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)



小平紀生(こだいら・のりお)
1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。

※本記事は設備材やFA(ファクトリーオートメーション=工場の自動化)の専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。

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