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2020.01.27

ロボット市場これからこうなる、米中次第で変わるシナリオ

米国と中国の貿易摩擦や、欧州連合からの英国離脱問題など、混沌(こんとん)とする世界情勢の中で2020年代が始まった。これからの産業用ロボット市場はどうなるのか。中長期的に成長が見込めるのは確実だが、「米中貿易摩擦がどう決着するのかいまだに見通せず、自動化のニーズは大きいが、ユーザーの製造業が投資に踏み切れない。ドナルド・トランプ米国大統領のひと言で状況が大きく変わることもあり、注視が必要」とNTTデータ経営研究所の三治信一朗情報未来イノベーション本部長(所属や役職は取材時)は話す。

2桁の伸びが続く

 日本ロボット工業会(会長・橋本康彦川崎重工業取締役)の統計データによると、2019年7~9月期の会員企業の産業用ロボット受注金額は前年同期比7.7%減の1706億円。受注台数は同13.5%減の4万4275台。前年同期比での減少は受注額では4四半期、台数では5四半期連続で、1年以上も低迷が続く。

 受注額は13年から6年連続の右肩上がりで、18年には受注額、生産額ともに過去最高を記録したロボット産業だが、令和は低調な滑り出しとなった。

 しかし中長期的に見れば、ロボット産業が大幅に伸びることは論をまたない。ドイツに本部を置く国際ロボット連盟(IFR)の発表では、19年の世界のロボット出荷台数は対前年比で微減となるものの、19年から20年にかけては10%、21年と22年はそれぞれ12%と、毎年2桁の伸びを予想する。
 民間の各市場調査会社も大幅に伸びるとの見通しを発表しており、富士経済(東京都中央区、清口正夫社長)は25年に18年比で2.5倍の市場規模になるとの予測を発表した。

 産業用ロボットの世界最大の需要地である中国では賃金の上昇や品質の安定化のため、膨大な自動化ニーズがある。日本では少子高齢化などの影響で人手不足が深刻化し、産業用ロボットが大きな注目を浴びる。日本だけでなく、他の先進国も似たような状況だ。中国以外の新興国でも中国ほどの規模ではないが、ロボットの導入は少しずつ増える。世界のどこを見ても、産業用ロボットの需要は高まるばかりだ。
 
 また、ロボットの用途も拡大しており、自動車や電機など以前からロボットを使っていた業界と比べるとまだまだ台数は少ないが、食料品、化粧品、医薬品の「三品産業」などでも産業用ロボットが少しずつ使われるようになってきた。

トランプ大統領を注視

「見通しは米中対立構造次第」と話す三治信一朗氏

 今後の伸長が間違いないロボット産業だが、足元の減速を生み出した要因とは何か。最も大きいのが米国と中国との貿易摩擦だろう。

 10年近く産業用ロボット産業に関わってきたNTTデータ経営研究所の三治信一朗情報未来イノベーション本部長は「産業用ロボット市場の見通しは、米中対立構造が今後どうなるか次第」と話す。
 中国の自動化需要は膨大だが、この対立が続くのか、どのように決着するかが分からなければ、製造企業は生産国まで含めた今後の生産戦略が立てられない。中国に生産拠点を置く企業は多いが、中国工場に自動化投資をすべきか否かを判断できず、先送りになっている自動化投資計画も少なくない。

 「シナリオは4つ。米国が勝って中国が負ける、あるいは中国が勝って米国が負ける、両国ともメリットを得る『両方の勝ち』、どちらもマイナスとなる『両方とも負け』。超大国がどちらも負ければ、急激な景気後退もあり得る」と三治本部長は指摘する。
 ドナルド・トランプ米国大統領はこれまで、メキシコとの国境での壁の建設など、宣言したことは強硬にでも実現しようとしてきた。「米中貿易摩擦がいつどのように決着するかは誰も分からないが、自動化投資はとりわけ大きな影響を受ける。トランプ大統領の発言次第で大きく動くこともあり得るので、注視すべき」と三治本部長は言う。

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