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2019.11.20

連載

[注目製品PickUp! vol.19]同業者も驚く特殊構造で、いろんな物を吸着する【前編】/妙徳「バルーンハンドSGBシリーズ」

本体にも多くの工夫

SGBの内部機構の概略図。白線が空気の流れを示す(妙徳提供)

 ロボットハンド本体に真空発生器のコンバムを内蔵したのも、SGBシリーズの工夫の一つ。ハンドはロボットの先端に付けるため、ハンド本体や付属機器に突起が多いほど、ロボットの稼働に支障が出やすい。
 一般的な真空吸着式ハンドの中には、ロボットアームの先端近くにハンド本体とは別に真空発生器を取り付けるタイプもあり、まれではあるがロボットの稼働中、真空発生器が予期せず周囲のものにぶつかる場合がある。こうした接触の心配がないよう、SGBは無駄のないデザインを追求し、本体に真空発生器のコンバムを内蔵した。

SGBの特徴を話す泉陽一執行役員

 またロボットの動作のしやすさを考えると、ハンドに接続するコードやホースもなるべく少ない方が良い。SGBの吸着パッドを膨らませる空気は、吸着して真空を生み出した際の排気を再利用したもの。そうすることで、圧縮空気用のホースを1本にした。この構造を見て、ほぼ全ての同業者が驚くという。

 泉執行役員は「吸着パッドを膨らませて対象物との密着性を高める方法は、意外と思いつく。ただそれを実現するために、ホースを1本にする発想が難しい。真空発生用と吸着パッドを膨らませる用に2本のホースを接続する方が発想としては簡単だけど、SGBはそうしなかった」と話す。

顧客のラインを止めないために

「顧客の製造ラインを止めるわけには行かない」と国松孝行営業部長

 SGBの新品には、予備の吸着パッドを1個同封する。これは顧客を考えた配慮だ。SGBの吸着パッドはゴム製のため、経年劣化する。柔軟性が売りなのに、ゴムが破損するとSGBの長所を発揮できない。ロボットハンドの吸着パッドが機能しないと、ロボットは持ち上げ作業をできない。人手作業により代替したり、最悪の場合は製造ラインを止めてしまう。

 そのような事態を防ぐため、すぐに交換できるよう予備の吸着パッドを新品に同封する。「新品のロボットハンドを買った際に、予備まで買う人は少ない。ならば、わが社側で本体に同封しようと考えた」(国松営業部長)。顧客が吸着パットを交換した際に、次の予備を発注すれば、常にストックがある状態を保てる。

ばら積みピッキング用途で

不定形でほぼ球状のジャガイモも、容易に吸着する(妙徳提供)

 2016年にロボット関連の展示会で初めて披露した。当初は食品産業向けに提案。食品産業では、野菜や果物など原料を扱う際は特に、不定形物が把持の対象になる。
 その後各種展示会に出展すると食品業界はもとより、幅広い業界から関心を寄せられた。最近は物流業や製造業からの引き合いが増えている。業種に関わらず、ケースなどにばらばらに入った対象物をロボットシステムが認識して、持ち上げる「ばら積みピッキング」での採用例が多い。

 ばら積みピッキングでは、人間の「目」の役割を果たすビジョンシステムとロボットを組み合わせる。ハンドとしてSGBを付けたロボットを使うと、ばら積みピッキングでもビジョンシステムは簡単なもので済む。
 国松営業部長は「対象物に接触できればSGBが吸着する。ビジョンシステムは、そこに対象物があると分かればよい。角度がこうで、重心がどうでといった分析をする必要がない」と理由を話す。

 同業者から驚かれるロボットハンド。約40年間、真空機器に特化したノウハウを生かした製品という。後編では、同社の歩みや今後のロボット向け機器の開発方針を聞く。

――後編へつづく
(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)


[注目製品PickUp! vol.19]同業者も驚く特殊構造で、いろんな物を吸着する【後編】/妙徳「バルーンハンドSGBシリーズ」(11月21日公開予定)

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