2025.11.25
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[特集2025国際ロボット展vol.6]デジタルツインで工数削減/豊電子工業

システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の豊電子工業(愛知県刈谷市、盛田高史社長)はデジタルツイン技術の活用に積極的だ。ロボットシステムや生産ラインを仮想空間に再現し、動作性能や実現可能性を事前に検証することで、システム構築にかかる工数を削減する。近年はロボットに不慣れな顧客との商談の機会も増加傾向にあるが、こうした場面でもデジタルツイン技術が役立つという。

使いやすさはもはや“前提”

「トータルでの提案力を高めたい」と話す盛田高史社長

 豊電子工業は自動車産業向けのロボットシステムの構築を得意とするSIerだ。1980年にSIer事業に進出し、これまでに2万件以上のロボットシステムを世界40カ国・地域に納入した実績を持つ。

 同社が目指すのは、生産ライン全体を一括で請け負う「メガインテグレーター」。
 その実現に向け、さまざまな要素技術の開発に力を入れている。盛田社長は「生産ライン全体を構築するには組み立て機や上位システムとの通信連携など、ロボット以外のさまざまな領域のノウハウも求められる。わが社だけでは全てをカバーし切れないため、それぞれの領域で高い技術力を持つ企業とアライアンス(連合)を組んだり、M&A(合併・買収)でグループに迎え入れたりして、トータルでの提案力を高めたい」と語る。

 一般的には大規模なロボットシステムや生産ラインになるほど、仕様を決めるために顧客と何度も打ち合わせを重ねる必要があり、図面を描くだけでも一定の時間がかかる。また、こうした案件を持ち込むのは大手企業が多く、システムの使いやすさはもはや“前提”で、いかにコストを低く抑えるかが重視されるという。

 同社はシステム構築にかかる工数を削減し、受注から納品までのリードタイムを短縮するため、近年はデジタルツイン技術(現実空間の情報を仮想空間に再現する技術)を活用したバーチャル・コミッショニングを促進する。
 バーチャル・コミッショニングとは、実機製作に入る前に仮想空間でロボットシステムや生産ラインを試運転し、動作性能や実現可能性を検証することを指す。同社はフランスのダッソー・システムズの3Dデータ基盤「3DEXPERIENCE(3Dエクスペリエンス)プラットフォーム」を使い、仮想空間に再現したシステムを基に顧客との商談を進めている。

 成瀬雅輝取締役専務執行役員は「システムや生産ラインを3Dモデルとして視覚化できるため、お客さまとの合意形成を図りやすく、手戻りを削減できるのが最大のメリット」と説明する。最近はバーチャル・コミッショニングがきっかけで、システムの受注につながったケースも増えている。

パッケージを入り口に

物流業などに提案するパッケージ仕様のロボットシステムのイメージ(提供)

 豊電子工業の取引先は自動車産業が圧倒的なウエートを占めるが、近年は物流や航空機、半導体といった自動車以外の業種からの引き合いも拡大傾向にある。

 これらの顧客はロボットの知識を持ち合わせていないケースが多いため、使いやすさが重要な要素になる。「デジタルツイン技術を活用すればシステムの概要を分かりやすく説明できるため、ロボットに不慣れなお客さまと商談する時も役立つ」と盛田社長は述べる。

 また、同社はパレタイジング(段ボール箱を積み付ける作業)やデバンニング(コンテナから荷物を取り出す作業)を自動化するパッケージ仕様のロボットシステムを開発し、扱いやすさを武器に物流業などへの提案を強めている。「パッケージ仕様を採用して使い勝手を高めるだけではなく、遠隔サポートの機能も実装して運用面での安心感も提供する必要がある」と成瀬取締役は話す。
 まずは自動化の入り口としてパッケージ仕様のロボットシステムをPRしつつ、将来は上位システムとの通信連携などの高度な要望にも応え、競合との差別化を狙う構えだ。

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