[ロボットが活躍する現場vol.50]自宅からロボットを活躍させる/高丸工業
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の高丸工業(兵庫県西宮市、高丸正社長)は独自開発の遠隔溶接ロボットシステム「WELDEMOTO(ウェルデモート)」を開発し、それを実際に自社工場で使い始めた。第2子が誕生し、在宅勤務を始めた高丸泰幸専務は自宅から溶接ロボットを遠隔操作し、自宅に居ながらロボットを活躍させる環境を整えた。
取材場所は初の個人宅
ロボットダイジェストの連載企画「ロボットが活躍する現場」は、その名の通りロボットが活躍する現場へ記者が赴くのが趣旨だ。だが、今回の取材場所は高丸工業の高丸専務の自宅。個人宅での取材は本連載初で、高丸専務の家庭に産業用ロボットの姿は当然ながら見当たらなかったが、紛れもなくロボットが活躍する現場である。
高丸工業の本社工場には溶接ロボットが配備されており、取材当日は高丸専務宅のノートパソコンと本社工場のロボットを接続し、遠隔でロボット溶接に挑んだ。「自宅からロボットを遠隔操作するのは今回が初めて。取材のための動作デモではなく、顧客に納品する部品を溶接する」と高丸専務は緊張の面持ち。
きっかけは在宅勤務
複数のモニターにはロボットの3Dモデルを表示する操作画面と溶接ロボットの様子をリアルタイムで表示するモニタリング画面が映し出される。カメラの視点を切り替えながら、ロボットの動く先をマウスで指定すれば、ロボットの動作経路は自動で生成される。実行ボタンを押している間だけロボットが動き、実行ボタンを離せば即座に動きが止まるため、安全にも配慮されている。
高丸専務から動作の指示を受けたロボットが3Dモデルと同様の姿勢をとった後、火花を散らしながら溶接対象物(ワーク)を溶接する様子がモニター越しに確認できた。
今回の遠隔溶接で使ったのは、同社が開発した遠隔溶接ロボットシステムのウェルデモート。ソフトウエアをダウンロードしたパソコンと外付けモニター、通信環境さえあれば、場所を問わず溶接ロボットを遠隔操作できるようになる。
高丸専務は今年第2子が誕生し、育児のために8月から在宅勤務を始めた。これをウェルデモートが活用できる好機と捉えた。「自らウェルデモートを使うことで、実際に使わないと気付けないような改善点を見つけ出せる」と高丸専務は言う。
海外も「活躍する現場」に
「ロボットは知識がないと扱えないハードルの高さが難点。ウェルデモートはこれまでロボットになじみがなかった人でも直感的に操作できる」と高丸専務は強調する。遠隔操作の場所は問わないため、極端な例を挙げれば海外の個人宅ですらロボットが活躍する現場になり得る。過去には台湾から日本の溶接ロボットを遠隔操作した事例もある。
溶接の精度を担保するため、現段階ではタッチセンサーでトーチとワークとの距離感などを計測する。「遠隔操作であっても溶接の出来栄えは問題ない。一方、タッチセンサーを使った溶接位置の微調整は多少使い手を選ぶ。全ての作業を直感的な操作でこなせるのが理想」と語る。
現時点ではワークやジグ(補助器具)の交換といった段取り替えは工場にいるスタッフが担当しており、自動化の余地がまだ残っている。
将来的には塗装や穴開けなどロボットを使った遠隔操作のバリエーションを豊富にし、ロボットが活躍できる現場をさらに増やすのが目標だ。「ウェルデモートをベースに、さまざまな機能を実現するアプリケーションソフトをいずれはわが社だけでなく他社も開発する環境になればそれが一番理想的」と先を見据える。
(ロボットダイジェスト編集部 斉藤拓哉)