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2020.04.09

5Gをどう使う? ロボットをリアルタイムに遠隔制御/ABB

3月下旬に第5世代移動通信規格(5G)の商用サービスが国内で始まった。従来よりも高速で通信できるだけでなく、多数同時接続や超低遅延などの特徴を持つ。特定の敷地や建物内でスポット的に「ローカル5G」と呼ばれる環境を構築することもでき、製造業での活用も期待される。ロボットや工場自動化(ファクトリーオートメーション=FA)機器のメーカーも、5Gの活用による差別化を模索する。製造業では5Gはどのように使えるのか、モノのインターネット(IoT)提案やデジタル技術の活用に力を入れるABBに話を聞いた。

デジタル変革のリーダーに

遠隔制御のデモシステムと、 ABBロボティクス&ディスクリート・オートメーションビジネスのサミ・アティヤプレジデント(左)とエリクソンのボリエ・エクホルム最高経営責任者(ABB提供)

 スイスに本社を置くABBは、産業用ロボットの業界で「世界4強」の一角を占める大手メーカーだ。重電や電力、電気自動車用インフラ事業も手掛け、それら全事業で「産業のデジタル変革」を推進する。
 「通信の速度や容量が十分でなくこれまでできなかったことも、5Gがあれば実現できる」と日本法人(東京都品川区、アクセル・クーア社長)の又吉智子バイスプレジデントは言う。

 例えば5Gで実現できることの一つが、遠隔地でのリアルタイムのロボット制御だ。今年1月にはスウェーデンの通信機器メーカーのエリクソンと、スイスの大手通信企業スイスコムと共同で、遠隔地に設置したロボットの制御デモを披露した。
 協働ロボット「YuMi(ユーミィ)」を手元に1台、5G回線で接続した状態で1.5km離れた場所にもう1台設置。敷き詰めた砂に文字を書く動作を双方同時にさせ、その2台がタイムラグなく動作することを示した。

 「その他、通信が大容量になればロボットに動作を記憶させるティーチング作業も遠隔でしやすくなる。5GとABBのロボット技術が組み合わされば、コストを抑えながら質の高いサービスが提案ができる」と又吉バイスプレジデントは話す。

各分野のトップ企業と連携

自社工場でも5Gシステムの試験運用を開始した(ABB提供)

 フィンランドの自社工場にも5Gと人工知能(AI)技術を組み合わせたシステムを昨年導入し、試験運用する。
 カメラなどでモーターの制御機器の組み立て作業の状態を認識し、コンデンサーが正しく配置されているか、ねじ締めが適切にされているかを確認する。手違いがあった場合は即座に作業者にフィードバックする。

 「仕様が少しずつ異なる数十品種を一つの組み立てラインで製造する。そのためミスがないよう確認しながら組み立てなければならず、作業者に大きなストレスがかかっていた。このシステムがあることで、職場のストレス軽減にもつながった」(又吉バイスプレジデント)

 同社は15年ほど前から、現在で言うIoTのようなデジタル技術を積極的に提案してきた。
 2017年には、設備の稼動監視などさまざまなサービスやシステムを提供できる共通プラットフォーム「ABBアビリティ」を発表するなど、近年その取り組みにさらに力を入れる。
 前述のエリクソンやスイスコムに加え、米国のマイクロソフトやIBM、ヒューレット・パッカードエンタープライズ、フランスのダッソー・システムズなどとパートナーシップを締結。「ABBアビリティパートナー」として共に、幅広い産業向けに200超の機能を提供する。

 「各分野のトップ企業と連携し、産業のデジタル変革をけん引するリーダーがABB。必要に応じて5Gも活用しながら、顧客ビジネスのデジタル化を支援し、生産性と競争力を高める新たな機会を切り開くことに貢献していく」と又吉バイスプレジデントは語る。

(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)



※この記事の再編集版は、設備財や工場自動化(ファクトリーオートメーション=FA)の専門誌「月刊生産財マーケティング」2020年4月号でもお読みいただけます。

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