生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.01.22

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#12]自前主義のお点前(上)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話。アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ―――

――ああ、いらっしゃいませ。
マスター元気? いやあ今週も疲れ…、えっ! もう看板なの?

――早く中へ! 緊急事態宣言で今週からさらに1時間早めて8時までなんです。
 8時ぃ? 小学生じゃあるまいし。中学生だって、学習塾が終わるのはもっと遅いだろうに。これからがオトナの時間だろう? 大のオトナは黙って従ってるのかよ、情けない。

――役所も見回っているみたいなんです。“時短警察”が冗談じゃなくなりました。
 「年始は実家の玄関先でのあいさつだけ」「昼間も外食するな」って、だったら役所の食堂も締めろよな、アホか! それにしても、みんな自分のアタマで考えなくなったのかね。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。え~っと、今夜のおすすめは「白カビのドライサラミと生ハムのお任せ盛り」か。へぇ~しゃれてるね。お任せと言えば思い出すよ。「一切任せない。断固として自分でやる!」と啖呵(たんか)を切ったオヤジの会社を。極限まで自前主義を貫いたよなぁ……………。

 ある時、ロボットメーカーの営業担当者から電話をもらったんだ。「ちょっと相談が…」って。聞けば「ロボットを5台、まずは1台だけでいい。金はもちろん払う」と言って、その他の話は一切聞かない客がいると。事故防止や安全対策、もちろん使われ方によってはメーカーの責任も問われかねない製品だから「ハイ、そうですか」と言えない。「間に入って用途や事情も聞いてくれ」というのが担当者の本音だった。

 売ったはいいが、海外に転売されたり、兵器や薬物などのヨカラヌものを作ったりされたら、メーカーの責任問題になる。かと言って正面切って「転売しないでください」「何作るの?」とは聞けないから、SIerとして間に入り、商売上のヒアリングの体裁で、事情を聞いてくれと言う訳さ。

 聞けば「東京都江戸川区中葛西の…」と言われてピーンときた。「あのオヤジのところか」と。「葛西鉄工所か?」って聞いたら「そうです。今は『カサイ匠(たくみ)テック』に社名を変更しています」と。

 機械商社の時代に通った葛西鉄工所は、首都高速湾岸線を浦安方面に向かい、葛西で降りて北上したところ、トラックターミナルや葛西市場などが集まる一角にあった。

 過去の記憶を頼りに向かうと、かつての場所にカサイ匠テックはあった。5年前に代表権を息子に譲ったのを機に社名を変更したが、工場で取引先との間で使われる通い箱の一部や、案内板などに「葛西鉄工所」の文字が残る。

 当時社長だった渡辺会長こそが、メーカーに問い合わせた本人だ。「おう!谷やん」と、屈託のない笑顔で迎えられたが、歳はとうに80を過ぎてるはずだ。

 「谷やんがわざわざ出張るまでもないさ。ロボットをまずは1台用意してくれたらいいんだ。あとはこちらでやるから」

 旋盤がロボットに変わっただけで、口調もセリフも昔のままだ。15年前にNC複合旋盤を買ってくれた時も、工場内の設置場所の基礎工事まで自分でやった。「大丈夫だ心配すんな。周辺機器がいる時は連絡するから」と、本体だけ買って、据え付け後の取り扱い説明さえ断った。

 「またそう言って。勝成君、いや今や勝成社長か、彼を困らせてるんでしょう?」と返しても、当人はニコニコしている。この会長の頭の中には、すでに固まったアイデアどころか、完成イメージが稼働しており、想定される不具合も検出しているのだ。

 「聞かせてもらいましょう。まずはお茶ぐらい出してくださいよ」。そう言って、2階の社長室、いや会長室へと上がっていった。

――たにがわさん。先が知りたいんですがそろそろ看板。続きはこんど、来週にでも聞かせて下さい。

=つづく


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

TOP