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2019.05.20

インタビュー

ロボットを入れたい企業は必見! ガイドラインと専門教育で導入サポート/名古屋工業大学江龍修副学長

「ロボットを導入したいけど、何から手を付ければいいか分からない」――。こうした悩みを抱える中小企業は多いのではないか。そんな中小企業の“駆け込み寺”として機能するのが、名古屋市昭和区の国立大学、名古屋工業大学の産学官金連携機構(※編集部注:金は金融機関のこと)だ。機構では、2016年に経済産業省中部経済産業局からの委託を受け「産業用ロボット導入ガイドライン」を制作した。また、機構内には、ロボットやモノのインターネット(IoT)の導入を支援する「なごやロボット・IoTセンター」も設けた。専門人材育成講座も半期に一度開催し、ロボットやIoTの専門人材の育成に努める。これらの取り組みの詳細を、機構長の江龍修同大学副学長に聞いた。

ビジョンを起点に

「当機構の取り組みは、バックキャスティング思考に基づく」と説明する江龍修副学長兼機構長

――名工大の産学官金連携機構の概要を教えてください。
 民間企業との共創関係を強化する組織として、もともと「産学官連携センター」と「大型設備基盤センター」がありました。産学連携に関連する機能や設備、人材を集約するため、2017年10月に2つのセンターを一体化し当機構へと再編しました。当機構の大きな役割は、企業と一緒になってビジョンを生み出すことです。「こういう技術があるなら、こんな新しいことができるに違いない」とのビジョンに基づいて、そこに至るまでのストーリーを一緒に作り上げます。すると、そのストーリーの中で、企業は自社の立ち位置が見えてくるでしょう。それぞれの立ち位置の企業が集まれば、一つの集団ができます。これが私の思い描くエコシステム(生態系)で、当機構はそのエコシステムを構築するための組織であると考えています。

――ビジョンを起点にするのですね。
 具体的なビジョンをまず設定し、それを実現するために必要な要素を分析し細分化する「バックキャスティング思考」と呼ばれる発想法があります。当機構の取り組みは、基本的にバックキャスティング思考に基づいています。

――具体的に、どのようにしてビジョンを描きますか。
 例えば、ロボットと情報を活用した未来の社会にはどのようなものが必要になるか。社会全体を考えるなら産業用ロボットだけではなく、ドローンや災害救助用のロボットも要るでしょう。こうしたロボットを有効に活用するには、ワイヤレスで電力を供給できる無線給電システムもきっと重要ですよね。これに付随して、街の情報を得るシステムや品質管理の手法も要求されます。すると、どのような加工技術が必要になるのか。こうした発想も生まれます。サイバーセキュリティー対策も欠かせません。このように未来のビジョンを描き、そこから逆算する格好で必要な要素技術、つまりストーリーを一つ一つ作っていきます。

産学官に“金”も

「なごやロボット・IoTセンター」の風景

――産学官に加え、金融機関も入れているのが特徴的ですね。
 金融機関を交えているのは大きな理由があります。中小企業は資金力に課題があります。叶えたいビジョンがあっても自社に設備や施設がなければ、それを持つ大学などと共同研究する必要があります。しかし、共同研究をしようにも中小企業にはお金がありません。一方、金融機関は「どの企業がどういう案件で困っているか」との情報を持っており、私のところに相談に来ます。その分野に強みを持つ教授を紹介して、困っている企業との橋渡しをするわけですが、先ほど申した通り共同研究のためのお金がない企業もあるでしょう。だからこそ、金融機関には共同研究費を融資してもらう必要がある。そのための産官学“金”です。主に地元の金融機関と提携を結んでいますが、最近はメガバンクとの接点も増えました。

――産学官金の連携の橋渡しをする上で、大学が果たす役割は何でしょうか。
 大学が旗振り役となることで、エコシステムに参画する企業同士のしがらみがなくなるのは非常に大きなポイントです。当機構内には、中小企業のロボット導入を支援する「なごやロボット・IoTセンター」がありますが、その運営会議には複数のロボットメーカーやロボットシステムの構築を担うシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)が参加します。競合同士が会議に参加するため、最初は各社とも口を利いていませんでした。しかし、3年目を迎えた今は、非常に仲良くやっています。各社とも、自分の意見や当センターに対する要望を積極的に発信してくれるようになりました。企業と大学の間だけで利害関係が結ばれており、企業同士の利害関係はありません。こういうメリットがあるからこそ、大学が産学官金の連携の橋渡しをする価値があります。

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