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2023.02.20

柔軟なゲル素材で、さまざまな物を優しくつかむ/タナック

将来的には自社商品も

  • 一つのグリッパーでさまざまな形状の物をつかめる(提供)

  • もろく崩れやすい豆腐も搬送できる(提供)

 同社は当初、筋電義手(筋肉から発生する微弱な電位を使って動作を制御するロボット義手)という特殊な用途にクリスタルゲルを提案していた。筋電義手について研究していた電気通信大学の横井浩史教授らと共に、クリスタルゲルを使った筋電義手用グローブの研究開発に13年から取り組み始めたのがきっかけだった。

 その後、筋電義手以外の分野にも超柔軟ゲル素材の適用先を広げるため、同社が次に目を付けたのが、協働ロボットを中心とした産業用ロボットやサービスロボットだった。「協働ロボットもサービスロボットも人と触れ合う機会が多いため、安全性が厳しく求められる。こうした分野にこそ、クリスタルゲルをはじめとした超柔軟ゲル素材の特徴が生かせる」と技術課の若松享平主任は強調する。

一色俊和課長(左)と若松享平主任

 16年にはソフトロボティクス事業を立ち上げ、産業用ロボット用グリッパーの研究開発に本腰を入れ始めた。2年後の18年からは中部地区のロボット関連の展示会に出展し、クリスタルゲルを採用したグリッパーを展示。デモを交えながら自社製のゲル素材の特徴を幅広い業界にアピールし、顧客開拓につなげた。
 一色課長は「傷を嫌う塗装部品の搬送や、多品種の部品を取り扱う生産ラインの自動化といった用途で、特に自動車業界から多くの引き合いが来ている」と話す。最近は食品など自動車以外の業界からの相談も増えつつある上に、ロボットハンドメーカーからも声が掛かるようになった。

 同社は顧客ニーズに合ったグリッパーをオーダーメードで製作するだけではなく、グリッパーの用途を広げるための研究開発にも力を入れている。その一つが表面改質の技術だ。若松主任は「滑り止めの機能を新たに追加するため、表面に人の指紋のような凹凸を設けたゲル素材を開発した。この他、分子間力(分子と分子の間に働く力)で物に張り付く『ヤモリの手』の構造を再現したグリッパーも製作した」と述べる。
 産業用ロボットの分野に本格的に進出してから7年とまだ日が浅いだけに、今後も引き続き顧客ニーズを調査しながら、それに合った素材を研究していく構えだ。将来的には自社商品の開発も視野に入れているという。

(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史、写真・今井康太)

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