世界一のソリューションをどこよりも安く【後編】/日本惣菜協会 荻野武AI・ロボット推進イノベーション担当フェロー
導入費用を4000万円から500万円に
――前編では作業者一人分の作業を担うロボットシステムを個別に開発すると2000万円、要素技術の開発から始める場合は4000万円とうかがいました。このプロジェクトで、盛り付けロボットシステムはどの程度まで安くなりますか? 500万円を目指しています。個別の設計や開発がなければ十分可能な価格です。前編で「スマートフォンや家電製品のように直感的に使えることが重要」と話しましたが、操作性の高いインターフェースや、汎用性の高いロボットハンド、画像認識のためのカメラやAIまで含めたシステムです。現在、全国で約60万人が総菜工場で働いています。多くは外国人労働者ですが、特に人手がかかる盛り付け工程などの作業を将来、理想としては全て機械化し、大変な作業を無くす一助になれればと思います。
――盛り付けロボットの他に、何か取り組みはありますか? 仮想空間で高精度なシミュレーションができる「デジタルツイン」技術を使った生産工程の最適化や、AIによる注文量予測のためのシステムも開発予定です。また、実は各社が頭を悩ませていることの一つに、出勤シフト計算があります。 ――出勤シフトの作成に、なぜそこまで頭を悩ませている? ワンフロアに200名程度が働く総菜工場はよくあります。200人それぞれに「この日は何時からなら働ける、何時までには帰りたい」、「この日はお休みに」などそれぞれ事情があり、技能レベルにより担当できる業務や担当できない業務、作業速度などに違いがあります。各設備の生産能力にも制限がある中で、数十種類もある各製品を受注した量、決められた時間までに製造しなければなりません。また今後はロボットも含めた出勤シフトを組む必要性が出てきます。これら全ての条件を勘案して最適なシフトを組むことは、従来のコンピューターの計算能力ではできませんでした。この課題を、量子コンピューターを使って解決できればと考えています。受注した製品を出荷できないことだけは避けなければならないので、人員の確保が難しい中で、今は少し余裕を持って必要以上の人数でシフトを組むことが一般的です。最適なシフトが組めるようになれば、経営改善に直結します。
――なるほど。注文量予測やシフト計算が正確になれば、無駄なく、より効率的に総菜を作れそうですね。 繰り返しになりますが、今回の一連のプロジェクトの目的は、総菜業界から人手不足をなくし、業界全体に貢献することです。今回紹介した他にも、総菜メーカーのデジタルトランスフォーメーション(DX=デジタル技術による業務変革)の推進などにも今後取り組みます。研究や開発の成果は広く共有していきますので、今後もご注目いただければと思います。
(聞き手・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也) ――終わり
荻野武(おぎの・たけし) 日立製作所中央研究所でアナログ・デジタル信号処理などの研究に従事した後、国内外の事業部門で多くの新規事業の立ち上げなどを経験。2016 年にキユーピー入社、AI・ロボットなどの現場実装を担当。21年7月より現職。日本イノベーション融合学会フェロー、ロボット革命イニシアティブ協議会WG2食品TC長。