「汎用」AIソフトで言語化しにくい作業を自動化/デンソーウェーブ
目安は30~50回
AI模倣学習は、言語化しにくい、つまりプログラムを作りにくい作業を自動化するのに役立つ。「言語化しにくい作業」は抽象的で裾野も広いだけに、同社は具体的なアプリケーション(応用的な使い方)をいくつか提示している。 例えば抹茶の粉末の秤量。粉末が山になっている場所を狙ってスプーンですくい、特定の重さになるまではかりに乗せる作業だ。粉末をすくうたびに山の位置が変わるため、最適なプログラムを作るのが難しく、自動化できない作業だった。 そこで、マスタースレーブ方式で手元のコボッタを操作しながら、すくった時の粉末の重さや山の位置、ロボットの位置情報などのトレーニングデータを取得し、AI模倣学習で推論モデルを生成する。すると、山の位置に合わせてAIがロボットアームを最適に制御できるようになり、従来は難しかった粉末の秤量作業を自動化できる。 その他、コンテナ内に乱雑に積まれた物をつかみ上げるばら積みピッキングや、コンセントにプラグを差し込む作業などもAI模倣学習で自動化できる。
一般的なAIソフトでは何千や何万ものトレーニングデータを取得する必要があるが、今回の秤量作業で集めたデータの数はわずか100。学習時間も5時間で済んだ。「マルチモーダル方式の強みは一度に多くのデータを収集できること。AI模倣学習ならトレーニングデータを集めるのに30~50回ほど反復作業をするだけで、その作業にAIを適用できるかどうかのおおよその目安がつく」と澤田部長は語る。
文化が正反対
AI模倣学習のコア技術であるAIエンジンは、米国のスタートアップ(新興)企業のintegral(インテグラル) AIが手掛けた。「汎用的なAIソフトを作りたい」との思いが一致し、昨年1月ごろからAI模倣学習の本格的な開発を始めた。 しかし、デンソーウェーブが所属するFA(ファクトリーオートメーション)業界とAI業界は文化が正反対で、井戸本主任を中心に何度も議論や交渉を重ねた。「FA業界では『同じ製品を長く使い続ける』との文化がある。一方、AI業界は日進月歩で技術が進展するだけに『常に最新版にアップデートする』との発想が常識だった」と井戸本主任は説明する。 最終的には①毎年バージョンアップをする②旧バージョンも長期的にサポートする③リリースした後も3年間はバグフィックス(バグの修正)に対応する――の3点で合意し、AI模倣学習の発売にこぎ着けた。