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2021.07.30

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#27]海外からの「お取り寄せ」(上)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたよ。

――今夜はいらっしゃらないと思っていましたよ。五輪のテレビ観戦で。
 五輪ねぇ、盛り上がってるんだかいないのか。長らくイベントごとの自粛モードが続いたから「さぁ皆さん金メダルです!」って言われても、素直に喜べなくてさぁ。コロナだからだろうけれど、表彰式で差し出されたお盆から、自分でメダルを首にかけるってのもねぇ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「ナスの煮びたし」か。へぇー、バーなのにすっかり和食メニューだね。ナスって、そもそもインドが原産で、8世紀ぐらいに日本に渡って来たらしいんだけど、人間の食への欲求は際限がないよね。当時から「お取り寄せ」してたんだから。お取り寄せって言えば思い出すよ、三島ランチサービスの案件を。あれこそ食への欲求、究極のお取り寄せだったなぁ……………。



 新型コロナウイルス感染症の経済への影響を報じるニュースで、外食産業への影響を取り上げることが多い。外食産業といえば、居酒屋やレストランなどの飲食店を思い浮かべる人がほとんどだろうと思うけど、業界団体の統計では、学校や保育所、病院や福祉施設、企業向けの給食会社の売り上げが、全体の8割を占め、その額は何と20兆円以上にのぼる。

 つまり、平たく言えば外食産業と言えば、給食事業そのもの。大手のファミリーレストランや居酒屋チェーン、ファストフードの売り上げを合計しても、わずか2割に過ぎない事は、意外に知られていない。

 少子化で子どもの数が減ってはいるけれど、対照的に高齢者が増えているから、今後も給食事業そのものは安定規模が維持されると言われている。給食事業は規模の優位性が得られやすく、食材の仕入れや輸送のコスト削減を目的に、同業者の買収を進めて拡大成長を続ける会社もあるんだ。

 レストランや居酒屋チェーンなど、比較的近い業種からの参入もあるけれど、大手企業の社員食堂の運営を引き受け、製造業の海外進出の動きに合わせて、「食の安全性」を武器に、海外進出で業容を拡大した企業なんてのもある。

 愛知県春日井市に本社を置く三島ランチサービスは、バブル景気の崩壊直後の1992年に創業した、給食事業者としては後発の位置づけ。企業向けの給食サービスとしてスタートし、主に中小規模の町工場を顧客として開拓してきた。創業者の三島瑞穂が脱サラして、妻と2人で起業し、町工場を1件1件回って、新規の顧客を開拓した。

 バブル崩壊直後で、景気が悪いだけでなく、営業先の町工場の雰囲気もぎすぎすしていた。半そでシャツで笑顔を振りまく瑞穂の人柄が町工場の休憩室の雰囲気を変え、職人に好かれ、経営者にも愛された。

 給食サービスと並行して、町の弁当屋も開業。5年で名古屋市内と郊外に5店舗を開業し、10年で20店舗に拡大。夫婦で始めた工場はたった10年で、食品の製造過程の管理を高度化するHACCP(ハサップ)を導入した3工場にまで拡大した。まさに急拡大だった。

 その後、工場は2つ増えて5カ所に、弁当屋は愛知県内に25店舗にまで拡大した。工場の拡大に対し、店舗数が増えていないのは理由がある。給食事業を、企業向けから高齢者向けにシフトし、中小の町工場から老人向けの介護施設や病院、個人宅配に注力したからだ。

 愛知県内に5カ所ある工場では、当然自動化も進められてきた。食品業界には、食材の洗浄や運搬、切断、その後の調理用など、それぞれを得意とする専用機メーカーが数多くある。事業規模も大小さまざま。中には鶏肉の肉と骨を分離する機械で「シェア100%」なんてメーカーもある。設備全体を抗菌樹脂製にするなど、衛生管理の重要性を理解した強みを武器に、焼き物や揚げ物、煮つけなど、得意とする分野でしのぎを削る。

 最近は、産業用ロボットメーカーも食品分野に注目し、調理や盛り付けなど、専用機メーカーが未着手だったところに食い込み、参入を狙っている。ただし、産業用ロボットはこれまで自動車産業や電機産業などで多く使われてきたから、作業の速さや動作の正確さなどに重点が置かれ、衛生管理の面では、顧客から厳しい目を向けられているのも事実だ。顧客が産業用ロボットの技術者と話をしようとしても、どうしても「一から説明」がいる。それに対し、普段から取引のある食品の専用機メーカーとは、いわゆる「あうんの呼吸」で話が通じやすいというのもある。

 そこで、俺にお鉢が回って来たんだ。

――ちょっ、ちょっと待ってください。先を聞きたいんですが、午後9時を回りましたんで、そろそろカンバンにします。この先は、来週にでも聞かせて下さい。新しいつまみを用意して、お待ちしておりますので。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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