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2019.04.05

連載

[注目製品PickUp!vol.11]製造現場でもヒト型を【後編】/カワダロボティクス「NEXTAGE」

今回の「注目製品PickUp!」で取り上げるのは、カワダロボティクス(東京都台東区、川田忠裕社長)のヒト型ロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」。腕が2本の双腕型で、ボディーの上には頭が付く。前編ではその特徴や使い方を紹介した。後編では開発の経緯や技術の系譜を取り上げる。カワダロボティクスがヒト型にこだわる理由とは――。

無人ヘリの技術を生かして受託製造

 カワダロボティクスが設立されたのは2013年。前身は、KTI川田グループの中核企業として鋼製の橋や建築用鉄骨の設計、製造などを手掛ける川田工業(富山県南砺市、川田忠裕社長)の、ロボティクス事業部だ。

 川田工業は1987年、ヘリコプター事業に参入。小型の無人ヘリコプターなどを開発した。その事業はもうないが、モーターなどの制御駆動や、軽量・高剛性の機構設計、高密度の電気配線などの技術は残った。この技術がロボット開発につながった。

 最初にロボットを開発したのは99年。東京大学がヒト型ロボットの制御を研究するため、ロボットのハードウエアを製造できそうな企業を探していた。そこで川田工業に声がかかり、東大からの委託で人型ロボット「H6」を製造した。

研究用ロボで技術を磨く

産総研などと共同開発した「HRP-2プロメテ」

 2003年には、経済産業省のヒューマノイド・ロボティクス・プロジェクト(HRP)の一環で同社や産業技術総合研究所(産総研、中鉢良治理事長)などがヒト型ロボット「HRP-2プロメテ」を共同開発し、学術研究用として国内外の研究機関に提供を始めた。

 身長154cmで、体重は58kg。ヒト型ロボットでは、人の形状に収めきれなかった機構を背中に集めたバックパックと呼ばれる部位がある機種もあるが、HRP-2はバックパックがなくより人の形に近い。こうした特徴はネクステージにも共通する。

 「HRP-2は研究用ヒューマノイド(ヒト型ロボット)のプラットフォームとしての完成度が高かったようで、15年経った現在でも研究用に活用されている」とカワダロボティクス管理部広報担当の藤井洋之課長は言う。

 07年には屋外作業に使える防じん・防滴性能を備えた「HRP-3プロメテMk-Ⅱ」。10年には身長151cm、重量39kgのスリムな「HRP-4」をそれぞれ産総研などとともに開発した。

09年、独自のヒト型ロボットを発表

HRPやネクステージより以前の2001年に発表した自社開発のロボット

 自社単独でのヒト型ロボット事業を本格的に検討し始めたのは03~04年ごろから。

 「現在ほど切迫した状況ではないものの、当時からやがて人手不足が問題になることは予見されていた。そこで、人の替わりに工場で働くロボットが将来は求められるだろうと開発をスタートさせた」と藤井課長は話す。

 木製の模型を動かして軸構成を検討するなど、一から開発に取り組み、09年には自社独自の製品として産業用ロボットのネクステージと学術研究用の「HIRO(ヒロ)」を開発した。
 HRPシリーズは2本足だったが、ネクステージとヒロはどちらも台座に設置して使う上半身だけのヒト型ロボットだ。現在ヒロは、学術分野で使われるさまざまな制御ソフトに対応する「NEXTAGE OPEN(ネクステージオープン)」としてネクステージのブランドに統合されている。

 「ネクステージのアームの可搬質量や精度、剛性は、当初はここまで高くはなかった」と藤井課長は言う。ネクステージは同社にとって初めての産業用ロボットだったため、どれほどのスペックが必要か把握しきれていなかったが、開発を進める中で産業用に求められるスペックの高さを認識。その要求に応えられる仕様で製品化した。

ソフトウエアも独自で

 同社はヒト型ロボットのハードウエアの開発は得意だったが、ソフトウエアは産総研などが開発していた。そのため、ネクステージを発売した当初は、ロボットに動作を教え込む教示用の標準ソフトウエアは付属していなかった。そのため、自社でソフトウエアを開発できる企業など、一部の企業にしか使われなかった。

 この状況が変わったのが12年だ。ネクステージ専用のソフトウエア「NxProduction(エヌ・エックス・プロダクション)」を開発し、標準搭載して販売するようにした。専門の技術者でなくてもプログラミングができる。「それまでは数えるほどしか導入事例がなかったが、このソフトウエアでようやく手軽に導入できる製品になった」(藤井課長)。

 翌13年には、ロボット事業を本格的に推進すべく、川田工業のロボティクス事業部からスピンオフする形で事業開発・技術開発を担う「カワダロボティクス」が誕生。15年、ロボティクス事業部全体を川田工業から引き継ぎ、開発から製造、販売までを担う現在のカワダロボティクスとなった。

  • NxProductionには、四隅の丸い目印で対象物を3次元的に認識する機能を追加できる

  • 丸い目印は、交換用ハンドの認識にも活用できる

ロボットと人で仕事を分け合う

「ロボットと人、それぞれが得意な仕事を担うべき」と藤井洋之課長

 ネクステージの導入先は機械メーカーから化粧品メーカーまで多岐にわたる。小物部品の組み付けをしたり、加工後の製品検査、箱詰めなどさまざまな工程で使われる。
 「汎用性が高い製品のため、われわれが考えてもいなかったような多様な使い方をされている。ネクステージが活躍できるところはまだまだありそう」(藤井課長)。

 さまざまな賞の受賞や複数のメディアに取り上げられたことで、製品自体の認知度は高まってきたので、今後はさまざまな使い方を提案し、販売につなげていきたい考えだ。

 最後にネクステージを使いこなすコツを聞くと、「ロボットなので単純作業は人より得意。しかし万能ではないので、人のようにはできない仕事もある。単純に人をネクステージに置き換えるのではなく、ネクステージが得意な仕事はそちらに担わせ、人は人にしかできない仕事で活躍してもらえれば」と藤井課長は話す。

――終わり
(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)


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