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2019.01.07

インタビュー

[新春対談]橋本康彦ロボ工会長×飯村幸生日工会会長【前編】

日本工作機械工業会の飯村幸生会長(左)と、日本ロボット工業会の橋本康彦会長(右)

2025年の日本の工場 ~人×工作機械×ロボット
人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)の出現により、工場の自動化(ファクトリーオートメーション、FA)技術が大きく進化している。FAが発展した近未来の工場とはどんなものか。日本の製造業はどう変わるのか。FA設備財の代表格である工作機械と産業用ロボット、それぞれの業界のトップである日本ロボット工業会の橋本康彦会長と、日本工作機械工業会の飯村幸生会長に語ってもらった。

中小企業にも自動化を

司会 まずは工作機械と産業用ロボットの現状を教えてください。

飯村幸生 工作機械の受注額は2018年1月~11月の11カ月間で1兆6800億円となり過去最高を2年連続更新し、12月の受注分でどれだけ上乗せできるかという状況にあります。中国市場は若干減速しましたが、日本をはじめ欧米などの先進諸国はいずれも堅調です。

「中小企業にもロボットを」と話す橋本会長

橋本康彦 ロボットの市場はここ数年、世界的に大きく成長しています。18年は後半に中国市場が減速したものの、受注額は1兆円を超えたと思われます。世界全体の産業用ロボットの55%は日本のメーカーが製造しており、日本は供給大国と言えます。しかし市場としては、1970年代~80年代は国内の自動車産業向けが多かったのですが、最近は中国など海外向けが増えています。購入するのが日本企業であっても、設置する工場は海外というケースがよくあります。

司会 日本市場での産業用ロボットの伸びしろは?

橋本 日本の企業の大半を占める中小企業にも今後はロボットが普及すると考えています。工作機械は中小企業にも当たり前に使われますが、産業用ロボットはまず大企業に広がり、中小企業への浸透はこれからです。最近は安全柵が要らない協働ロボットが開発され、中小の狭い工場にも導入が進むと期待されています。協働ロボットなら既存の製造現場をあまり変えずに導入でき、必要な時だけ設置するような柔軟な運用も可能です。日本の狭い工場で使えれば、世界中の製造業に通用します。

工作機械向け普及の課題は

「工作機械とロボットの組み合わせが増えた」と飯村会長

司会 工作機械にロボットを組み合わせる提案も増えています。

飯村 昨年11月に開催した工作機械の専門展、「第29回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2018)」では、ロボットを使った展示が前回展より3割ほど増えました。ワーク(被加工物)や切削工具の交換などを自動化する提案です。工作機械とロボットの組み合わせは、専用のロボットを組み込む方式と、汎用的なロボットでシステムを構築する2つのパターンに大別できます。専用のロボットはワーク交換に特化したものが多く非常にコンパクトです。汎用のロボットを使ったものでは、どういった用途やシステムを提案するかが勝負になります。

司会 ロボットと工作機械の組み合わせが普及する上での課題はありますか?

飯村 樹脂部品を生産する射出成形機では、取り出しロボットを付けることがもはや当たり前です。シンプルな動作で成形品の取り出しに特化し、費用対効果も分かりやすい。しかし工作機械は多様性に富み、ロボットの使い方もさまざまです。いくら投資すれば利益がどれだけ増えるかを定量的に示しにくい。また、トランスファーマシンのように加工物が大体決まっていて搬送が多い工作機械ではロボット活用が進むと思いますが、どんな加工依頼が来るか分からないジョブショップのような工場を自動化するにはまだまだハードルが高いです。

橋本 自動化の目的や目指す方向性に合わせた提案が必要だと思います。24時間ノンストップで稼働させれば工作機械の稼働率は上がりますが、最近は夜勤の作業者がなかなか集まらない。そういった場合は人がいなくても稼働を続けられる完全自動化システムを構築する必要があります。一方、人がいることが前提の製造現場では、協働ロボットを使って一部の作業だけを人と置き換えたい場合もある。どちらの自動化も求められており、積極的に提案する必要があります。

協調領域と競争領域

AIについて語り合う両会長

司会 製造業ではAIも大きな注目を集めています。

橋本 ロボットにとってAI技術の発展は、非常に大きな意味を持ちます。もともとロボットは位置を制御するもので、きちんと位置決めされたものを扱うのは得意でした。しかし、ちょっとでも物の置き方が変わるとうまくいかない。人にとっては何でもないことですが、ロボットにとっては難しい。AIがあればこうした課題を解決できます。AIの開発や、AI企業とパートナーを組むロボットメーカーは増えています。

飯村 今のAIブームは第三世代です。以前もAIブームはありましたが、第一、第二世代は結局うまくいきませんでした。昔のAIは知識駆動型で、知識を与えてやればそれを基に判断できるものの、知識の入力には限界があります。一方、今のAIはデータ駆動型と言われ、データを与えれば自ら学習します。ではどうやってデータを集めるか。昨年JIMTOFでは、300台近い工作機械をネットワークでつなぎました。多くの機械やロボットがつながれば、それだけ多くのデータが集まります。業界の中には協調領域と競争領域がありますが、通信規格の統一、ネットワーク対応などは協調領域として業界を挙げて取り組むべきと考えています。

――後編へ続く
(司会=編集長八角秀、文・写真=ロボットダイジェスト編集部)



関連記事:[新春対談]飯村幸生日工会会長×橋本康彦ロボ工会長【後編】(1月9日アップ予定)


飯村幸生(いいむら・ゆきお)
1980年同志社大学工学部機械工学科卒業、東芝機械入社。2000年射出成形機技術部長、04年微細転写事業部長、06年取締役、09年社長を経て、17年4月から会長。同年5月日本工作機械工業会会長。静岡県出身。1956年生まれの62歳。

橋本康彦(はしもと・やすひこ)
1981年東京大学工学部卒業、川崎重工業入社。2009年理事、13年執行役員などを経て、16年常務執行役員(現職)、18年取締役精密機械・ロボットカンパニープレジデント。18年5月日本ロボット工業会会長に就任。神戸市出身、1957年生まれの61歳。

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