生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2022.04.22

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#51] シンプルこそ美しい? あれこれ機材に凝るよりも

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。

――おや? 今夜はご機嫌ですね。何かいい事でもあったんですか?
 いや、そうじゃないんだよマスター。いやね、朝ネットを見てたら、今日は「カーペンターズの日」だっていうんだ。クルマで外回りしてた時にラジオを付けたらカーペンターズ一色でさぁ。懐かしくなって、ついつい鼻歌交じりに歌ってたら気分良くなってさ。バックミラーで後ろのクルマを見たら、運転してた同年代の女性も歌ってたから、多分同じラジオを聞いてたんだろうねぇ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「シラスと芽ひじきの和風ペペロンチーノ」かぁ、いいねぇ。ここのところしばらく涼しかったけど、季節はいよいよ夏だねぇ。パスタを和風に仕立てるって、イタリア人が知ったらびっくりするだろうねぇ。絶対に知らないと思うよ、日本人がパスタにのりを振りかけたり、明太子やたらこを乗せてるって事を。和風だしの吸い物を付けて店で出してるって知ったら、驚くだろうなぁ。驚くって言えばさぁ、ウチにペーパードライバーの若い衆がいるんだけど、初めてクルマを買ったって言うんだ。結婚したてで、身重の奥さんの実家が岐阜の山奥なんで「練習して運転できるようになる」って張り切っててさ。やさしい、いいヤツなんだよ。いいヤツと言えば思い出すよ、小川精巧の案件を。社長を含めてたった7、8人の会社なんだけど、人がいいヤツばかりでさぁ。オレが納めたロボットを、ホントよくかわいがってくれてるんだよなぁ……………。



 小川精巧は、大阪の天六(てんろく)、天神橋筋六丁目駅近くの住宅街に立つ、これぞ町工場と言える部品加工屋だ。天六と言っても、大阪や関西に住む人以外はなじみがないだろう。JR大阪駅、つまり梅田から直線距離にして2kmも離れていないところにあって、天神橋筋六丁目駅は地下鉄が2系統と阪急が交わるターミナル駅だ。大阪のど真ん中だが、天神橋一丁目から天神橋六丁目まで、南北2.6 kmに600の店が軒を連ねる日本一長いアーケード商店街でもある。商店街の周りは、すっかり下町の住宅が広がる。

 東京にたとえれば、東京駅から永代橋の手前、むかしの山一ビルがあった辺りまで、名古屋で言えば、名駅から丸の内を超えて錦三丁目の手前、東海銀行本店、今の三菱UFJ銀行名古屋営業部あたりかな。そこに全長2.6kmの商店街があり、周りを住宅が取り囲んでいるとイメージすればいい。都会中の都会に、ひっそりと佇(たたず)むのが小川精巧だ。 

 祖父の代から鋳物部品の木型作りをしていたが、今は樹脂部品の加工をメインにしている。夕暮れになると、近所から夕飯のおかずのにおいが漂うが、小川精巧の周りだけは、ほんのりとプラスチック原料のにおいがする。

 工場の中は、旋盤やマシニングセンタが所狭しと並び、それぞれの機械を担当する社員が、機械の間を縫うように、機械の前に立つ同僚を巧みにかわしながら、忙しく作業を続ける。

 社員1人1人が加工技術者で、それぞれがNCプログラムの作成や、新規で受注した試作品をどう加工するかを考える、いわゆる高付加価値の業務を担っている。こうした仕事の合間に、割とロットが多い、逆に言えば工賃の安い部品の加工も担う。

 機械に部品の元となる材料(ワーク)を取り付ける単純なワークセット作業は、単価の高い高付加価値業務に費やす時間を減らしてしまい、会社全体の生産性を低下させる原因になっていた。小川社長はずっとそこが気になっていて、ヒマを見てはどうやったら生産性を上げられるかを考えていた。

 「ロボットを入れるぐらいしかないか……」と思ってたところに、機械商社時代から付き合いがあったオレが、「近くに用事があったから寄っちゃった……」と、ひょっこり顔を出したってワケ。

 「ふ~ん、社長ロボット入れるの? この狭さだからさぁ、協働ロボでも入れる?」と、その場を引き取って、提案書を書くことにした。

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