生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2022.01.21

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#41]とにかく、いっぺん使ってみやぁ~せ

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 寒っぶっ! マスター元気? いやあ、寒いね。今週もほんと、疲れたわ。

――今夜はえらく冷えますね。お疲れのようですし、大丈夫ですか?
 まぁね。大寒も過ぎて、一年で今が一番寒い時期だから仕方ないよね。節分まではひたすらがまん。ただただ「忍耐」だね。昨日は東京出張で海の近くまで行ったら、風が冷たくて大変だったよ。革靴だと足の指先が寒いから靴下を二枚重ね、シャツの下とズボンの下に発熱下着でさ。それでも寒かったんだからたまらんよね。建物の中は逆に暑くて暑くて、背中に大汗かいてたよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「冷や奴森のバター乗せ」かぁ。えっ! この寒さの中で冷や奴食べさせるの? でも、そっか。薬味のネギやショウガは身体を温めるもんね。意外にいけるかもしれんねぇ。そうそう、意外と言えばマスター、「豊橋カレーうどん」って知ってる? 三河営業所にいた時に教えてもらったんだけど、カレーうどんの底にご飯、ライスが入ってるんだよ。カレー味のだし汁、つまりカレースープに合うから、スープを飲み干せる。これが美味いんだ。豊橋にはちくわとかまぼこぐらいしかないと思っていたから、こんな名物があったなんて知らなかったよ。三河と言えば思い出すよ、蒲郡の愛豊工業の案件を。「とにかく、いっぺんやってみやぁ~」の案件だったなぁ……………。



 「にっぽんの真ん中」と言うと、日本中あちこちから「ウチが真ん中だ」「こここそど真ん中」「いいやこちらが」と異論が噴出する。でもどう見たって、日本列島の真ん中と言えば、そのまま「中部」地方と名が付く三重から愛知、静岡県西部辺りだろう。

 異論があっても、今回はこのまま話を進める。その真ん中に、日本で一番大きな湾「伊勢湾」がある。三重県鳥羽市からぐるりと周り、海沿いの名古屋市からニョッキと飛び出た知多半島を先端までたどり、東から伸びる渥美半島の先っちょを結ぶ線までが伊勢湾だ。

 愛知県には2つの湾があって、知多半島の先っちょから半島東側をぐるりと周り、豊橋から渥美半島北部沿いにたどった半島先端までを「三河湾」と呼ぶ。知多半島東の付け根辺りから続く三河湾沿岸の地域を、ざっくりと「三河」と呼ぶ。

 三河と言えば、豊田市に本社を置くトヨタ自動車を筆頭とする「自動車産業の街」だ。トヨタを筆頭としているが、実は岡崎市には三菱自動車が、静岡県西部と三重県鈴鹿市にはホンダ、同じ静岡県西部ではスズキも自動車を作っている。さらにバイクの工場もあるから、まさに、トヨタに限らず自動車とバイクの、モータリゼーションを支える街なのだ。

 自動車の街だから、メーカーの最終組み立ての工場だけでなく、ティア1、ティア2と呼ばれる一次、二次の下請け工場があり、それぞれ傘下に下請けの協力会社がある。三河エリアは、規模の大小を問わず、数えられないぐらいの自動車部品の加工会社がある。

 蒲郡市にある愛豊工業も、そんな自動車部品会社の一つ。かつてはほぼ100%、つまりスポットで受注した部品以外は自動車部品の加工だった。鋳物工場と部品切削工場を持ち、オイルポンプやウォーターポンプ、燃料ポンプなどのポンプ部品に加え、自動車の電子制御の要(かなめ)でもあるECUケースなども製造する。

 お世辞にも大都会とは言えないまでも、まあまあの都会の愛知県は、自動車関連の大企業が多く、中堅クラスの愛豊では人が集まりにくい。愛豊の待遇が特に見劣りするわけではない。福利厚生も充実しているし、女性の働きやすさにも配慮がにじむ。給料の額面だって、トヨタ並みには程遠いが、同じ規模の会社と比べれば厚遇だ。ボーナスはともかく、20代の給与はトヨタと数千円、せいぜい5千円の違いだ。

 愛豊の社長、富田勝は、人が集まらない理由は給与や福利厚生ではなく「従業員の働きやすさではないか」と考えた。単純作業ほど、つまらない仕事はない。人がやる単純作業を、ロボットにさせようと考えを改めたのだ。

 では、単純作業は何か? まず目についたのは、部品の元になる材料、製造業では「ワーク」と呼ぶんだけど、これを機械に投入し、加工後の部品を機械から取り出す繰り返し作業だった。「じゃあロボットに任そう」と思ったものの、富田社長が見聞きした事のある産業用ロボットを導入しようとすれば、設備メーカーにシステムの設計を頼むなど、結構な費用がかかると予想された。
 
 そこで、当時三河営業所にいた俺に声が掛かった。現場をぐるりと見まわすと、建屋には加工機がずらりと並び、機械の間に産業用ロボットを配置するのは難しいだろうなと思ったんだ。そこで、半年前に展示会で見た「『人と協働するロボット』はどうか?」と聞いてみたんだ。会社から支給されたばかりのタブレット端末で、ロボットメーカーや展示会で撮影した動画を見せながら。

TOP