生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.12.10

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#35 ] パスタが何だ! ボロネーゼよりナポリタン

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――なんだかうれしそうですね、何かいい事でもあったんですか?
 まぁね。今日は大安だし、久しぶりに宝くじを買ってみたんだ。1等の賞金は7億円で、前後賞を合わせて10億円だってさ。俺の子どものころは、前後賞合わせて1億円になったってニュースになったぐらいなのにさぁ。隔世の感があるよねぇ。ロト何とかやナンバーズとかは、賞金がえらく高いらしいしねぇ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「ホエー豚の生ハムとパンチェッタ」かぁ、いいねぇ。何かよく分からんけど。あっそうか、たしか「パンチェッタはベーコンで、ボクの名前はパンツェッタ」って、テレビでジローラモが言ってたな。そういえば最近はマシになったけどさぁ、少し前まで何でもイタリア礼賛だったじゃない。メシとかスーツとかクルマとか、何でもイタリア流行りだったじゃん。あれって極端だったよねぇ。そりゃあ、麺の上に具を乗っけるだけだからパスタの原価なんて安いもんだし、スーツだって、たった3mの生地の良し悪しで値段が大きく変わるし、クルマだって要はデザインの奇抜さだけでしょ、イタリア物って。うどんじゃ一杯1000円なんてとても取れないし、スーツだって国産の生地を使えば安いし、クルマだって日本製のクルマをデザインだけ変えてOEM(相手先ブランド販売)で売ってるのもあるしさ。「何でもイタリア」と言えば思い出すよ。そう言えばあれも、固定観念から外れた話だったよなぁ……………。



 俺たちSIerの仕事ってさ、頭に描いたイメージをいかに実現するかってもんだと思うんだ。右にあった物が左に到達したときには部品が完成してたり、あるいは右でバラバラだったものが左では正確に収納されているとか、はたまた右では5種類あったものが左では各1つづつの詰め合わせに変わったり。

 右から左に移動するまでに、どこに何を置いて何の作業をさせて……、なんてのを頭の中でイメージして、それを図面に落としてシミュレーションして「イケる」となれば実物を持ってきて完成させる。

 そりゃあ、発注する客には予算ってものがあるからそれに見合う別の方法を考え、仕組みを収めるスペースに限りもある。騒音とか振動、うるさい客、いや厳しいお客さまのところでは「人体に及ぼす影響は?」なんて事を真顔で聞かれたり。

 最近よく聞かれるのが環境への影響とか、温暖化物質の排出量とかね。ホント、参っちゃうような注文や質問も多い。まあ、システムだけじゃなく、そういった細々としたものまで解決するのが仕事になった。

 最近の若いヤツらなんかは特に、ロボットを含めた、いわゆる自動化機器って物をどこにどう効率的に配置するかだけで頭がいっぱいで、とにかく値段だけが積み上がり、総予算が膨れ上がっちゃうって事が多い。

 まぁ、俺もこの世界に入ってからは、とにかくどんな機器を入れてどうやって自動化して省人化するかって事だけで頭がいっぱいだった時期もあったからね。

 何も自社に入る手数料をいかに稼ぎ出すか、それだけを考えているんじゃないんだよ。客にいかに便利に使ってもらえるか、喜んで使ってもらえるか、いかに分かりやすく省人化の成果を出せるかって考えれば、どうしてもそうなっちゃう。

 でもね、こんな人もいたんだ。俺らがカワさんと呼んだ河原崎さんは、食品機械メーカーの出身のSIerで。「溜め」がうまい人だった。

 たとえば、パンを焼く製造ラインがあるとするでしょ。生地を混ぜて、こね合わせて、焼いていく。これら一連の工程の間、特にこね合わせた生地を焼く工程の間は、かなり長めの自動ラインが引いてある。狭い工場内ではわざとS字にしたり、らせん状にして何度も上下させたりしてね。これは一見ムダに見えるけど、実際には役目を果たしているんだ。

 つまりこの移動中に、生地を寝かし、自然発酵させる時間を稼いでいるんだ。この時間を短縮しようと冷風を当てたり、逆に加熱したりすると、自然発酵させた風合いや香りが完成したパンに出ない。カワさんは食品機械メーカーでの長い経験から、現場で製造する職人から、そうした点の細かな聞き取りやしつこいぐらいのヒアリングを欠かさなかった。

TOP