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2021.11.12

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#31 ] 時刻表の使い方(下)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――おやっ、今日はコート姿ですか。えらく年季の入ったコートですね。
 今年はずっと暑かったけど、立冬を過ぎたあたりからはさすがに朝晩は肌寒いね。今朝もスーツのままでいいかと思って玄関を出たけど、「やっぱりダメか?」と引き返したんだ。毎年、季節変わりにクセのようにパッとつかんで羽織るのがこのコートなんだ。そろそろ袖口も擦り切れてきたんだけど、30を過ぎた頃に、安月給のくせに大枚叩いて買ったバーバリーなんでなかなか捨てられないんだ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「ピリッと辛いさつまいもチップ」か。秋だねぇ、どれどれ。おっ、タカの爪が入ってるのか。へぇー。そうそう、サブスクの話だったね。せっかく納めたNC旋盤だったけど「持って帰ってくれ」って言われてね。商売だからトラブルは付きものだけど、あれをなだめるのは大変だったんだよなぁ……………。



 入社して初の出張、つまりあれは「人生初の出張」だったんだ。ネットもない時代の出張ってのはホント、面倒だったんだよ。先輩たちも忙しいから、手取り足取りで新人の世話を焼いてくれる訳じゃない。そもそも俺は東京に土地勘もなかったから、地名が日本語なだけで、外国に行くのとそう変わらないぐらい、当時新人だった俺には大変なことだったんだ。

 そうそう、東武線の新鹿沼駅なんて、今じゃどうかは知らないけど当時は何もなくてね。夜遅くに改札を出ても、予約したホテルはすぐに分かったよ。そこしかホテルはないんだから。誰もいないフロントでベルを鳴らすと、ノータイでチョッキの前を開けた赤ら顔のおじさんが対応してくれたよ。もう一杯、始めてたんだろうね。その晩に、どこで何を食べたかなんてもう忘れちゃったけど、フロントのおじさんの対応は、よく覚えているよ。

 鹿沼市内の「めぐみエンジニアリング」は、当時で1000万円ちょっとぐらいの最新NC旋盤を買ってくれた。今もその雰囲気は残るけど、当時の機械の販売って結構乱暴なところもあってね。展示会や内覧会で客が興味を示すと、その後の「飲ませ」「食わせ」……、なんかで気分良くさせてハンコ付かせちゃったりしたわけよ。ゴルフもさせてさぁ。

 悪い意味じゃないよ。客の経営者にしてみれば会社の発展のため、設備を買うために銀行から借金するわけだし、従業員と家族の生活もかかっているからより慎重に進めたい。メーカーや商社にしてみたら、慎重になる、もっと言えば時に臆病にもなる経営者の背中をそっと、時にはグッと押したい訳よ。しかも気分よく。それで後から「あの時に決めて良かったよ」「おかげで追加発注できそうだ」なんて感謝されたらうれしいじゃん。このころじゃないかなぁ「ウイン・ウインな関係」なんてコトバが一般化したのも。

 あの時のめぐみエンジはバブル崩壊の影響を引きずっていて、加工の発注元も何社か失い、発注量も減っている最中だった。旋盤を発注した後も、納期を待つ間にも何社か発注元の経営が傾いていた。発注元の親会社が、海外生産に活路を見いだしたのもその頃だったんじゃないかなぁ。新興工業国を指す「NICs(ニックス)とか「NIEs(ニーズ)」なんて言葉が新聞や経済誌で踊ったのも、この頃だった気がする。

 そんな中で、機械を積んだ大型トレーラーが工場前の道路を占拠し、大勢の野次馬の前でクレーンで降ろされ、実際に据え付けられてメーカーのエンジニアからの操作説明が始まると、だんだん不安が増してきたらしい。途中で同業者から、同じ発注元の一社の手形が不渡りになったと連絡があって、社長は一瞬パニックになったらしい。

 経営状態と資金繰り、日々と月次の支払いを頭の中で再計算するうちに、俺たちとの飯なんて考えられなくなった。俺たちが昼飯を食ってる間も、帳簿をひっくり返してあれこれ考えてたみたい。そこで例の「持って帰ってくれ」って言葉がつい口をついたらしい。

 俺も悪かったよなぁ、いくら右も左も分からない新人だったとはいえさぁ。こうした不意な出来事や突発的に襲いかかる不安を解消するために、俺が現場にいたんだからさ。専務やメーカーの担当係長と飯なんか食ってる場合じゃなかったのさ。

 海千山千を経験したメーカーの担当係長はさすが偉くてさ、じっくり社長の話を聞いて、一つ一つ社長の不安を解消していった。その後はそのメーカーの部品を加工する協力会社にも連絡して、部品の調達先の一つにまで育て上げたって言うんだ。工作機械の部品加工って、結構シビアな世界だからねぇ。社長もこうした支援に応えようと頑張ったみたいだよ。

 今じゃ工作機械にもサブスク、英語で会費とか予約購読を意味するサブスクリプションの略なんだけど、そんな定額利用のサービスを始める会社も出てきた。長期の利用が前提のリースと違い、サブスクは3年とか5年契約とかも可能で、要らなくなれば1年で返すこともできる。最新式の機械も対象で、ソフトウエアの更新やメンテナンスも全部やってくれる。 

 俺が今いるロボットの世界でも、そうしたサービスがあるんだよ。買えば1台何百万円もかかるけど、サブスクを使えばメンテナンス費用なんかも含めて月に1台5万円とか、7万円とかからのサービスもあるし、必要な時だけレンタルするってこともできるんだよ。

――へぇ、そんなサービスがあるんですか。便利な世の中になったものですねぇ。たしかにウチのお客さんにも経営者の方が何人かいて、しばらく難しい顔で考え事してたり、いつもは強気なのに急にポツリと弱音を吐く方もいらっしゃいますからねぇ。そうした新しいサービスの情報をいち早くキャッチしたり、耳に届くようにするのも、大事な経営手腕の一つなんでしょうね。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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