生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.10.29

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#30] おおっ! 末は博士か大臣か? はたまた…

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――先週は展示会に出展されたんですよね、お疲れさまでした。いかがでしたか?
 いやぁ、何せ2年ぶりの本格的な展示会だったからねぇ。オンラインもいいけど、やっぱりちゃあんと、人と人が対面で話し合うってのはいいねぇ。マスク越しの対面なんで調子はまだ以前のようにはいかないけど、小間を訪ねたお客さんもうれしそうなのが分かる。マスク越しでも、目が楽しそうなんだよね。出展者同士も、同窓会に出席したような気分だった。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「キングサーモンとブロッコリーのクリームグラタン」か。今じゃ年中スーパーで売っているけど、ブロッコリーはこれからが旬なんだよね。さすがマスター、職人だねぇ。職人と言えばこないだ、ウチの技術担当の六さんが言ってたよ。今でこそ「リクルートコーナー」なんてのがあるけど、昔は学生が展示会の小間を見に行ってもろくに相手にされず、犬でも追い払うような扱いだったって。六さん自身も学生のころ、研究や調査のために行った展示会で"塩対応"されたって。そうそう、思い出した。今年ウチに入社したマミちゃんの志望動機も、展示会がきっかけだったんだよなぁ……………。



 あれはたしか、オレがまだ機械商社の営業マンで、産業用ロボットを担当させられたばかりの頃だったよなぁ。10年ほど、いやもうちょっと前だったか。東京の展示会で土曜日に、親子連れの来場者が小間にやって来た。父親と思しきおじさんの胸の来場者証には、大手自動車部品メーカーの名刺が挟んであった。父親が子ども2人に、ロボットの動きを身振り手振りを交えながら説明してたよ。

 お兄ちゃんの方が、じーっと食い入るように見つめててさ。ロボットの動きに合わせ、視線が吸い付いて動く。興味津々なのが、見てて分かるんだ。当時はまだ、協働ロボットなんてなくて、産業用ロボットは全て安全柵で覆われていていたんだけど、柵の間から、食い入るように見つめていた。

 土曜の午前で、開場して間もなくだったんで、来場者もまばらでね。「良かったら、少し操作してみる?」って、そのお兄ちゃんに聞いてみたんだ。最初は「えっ!」って驚いた顔をしてたけど、父親に「私が付いていますし、メーカーの担当者もいるから大丈夫ですよ」って声掛けたらさ、お兄ちゃんの目が輝くのが分かるんだ。チラッと父親を見て、「うん」とうなずくより前に、こちらに一歩踏み出してたよ。

 ロボットの操作を覚えさせる操作盤が「ペンダント」なんて呼ばれ始めた頃でね。操作そのものも、だんだん簡単にできるようになってきたんだ。ロボットのアームを指示して動かし、伸ばして、ハンドの位置を下げて、指を開いて、閉じてつかんで、持ち上げる。持ち上げたものを、自分の近くに持ってくる。「ほら、簡単だろ!」って。妹の方は小学生ぐらいかなぁ、お兄ちゃんが操作する手元を、じっと見てたよ。

 しばらくあれこれ動かしてたよ。子どもは覚えるのが早くてねぇ。担当の俺でもできないような複雑な動きも、見よう見まねでやってのけるんだ。10分か、15分ぐらいやってたかなぁ、来場者の数も多くなってきた頃に、メーカーの技術部長が飛んできて「たにがわさん、子どもに操作させちゃマズイ。ケガでもされたらたまらん。それに『オレにもやらせろ』って別の人に言われたら収拾がつかなくなる」って、少しキツ目に耳打ちされちゃってさ。「そろそろ別の人に代わろうか」ってペンダントを返してもらった。

 お兄ちゃんが操作している間に父親と少し話したんだけど、「仕事で使うから見に来たんだけど。息子の方が興味を示してね。別の展示会でもらったパンフレットを家に持ち帰ったら、暇さえあれば眺めてるよ」なんて話してた。興奮してたのかなぁ、お兄ちゃんは顔を紅潮させてたよ。うれしかったんだろうなぁ。
 
 で、お兄ちゃんはその後どうしたって? たしか「ウェブ関連の仕事に就いた」ってマミちゃんが言ってたよ。「親父と同じ道には進みたくない」ってさ。親子でいろいろあったんだろうねぇ。ロボットは早々に飽きちゃったらしい。

 実はその展示会では、妹のマミちゃんの心に火が着いたらしい。お兄ちゃんが喜々としてロボットを操作しているのを見て「私もやりたい」と思ったのに、その場では言い出せなかったらしい。ロボットに飽きたお兄ちゃんが捨てたパンフレットやロボットのノベルティーは、その後全てマミちゃんの手に渡ったんだってさ。

 普通科の高校を出て、大学は工学部に進んでロボット工学を学んだらしいんだけど、ロボットメーカーへの就職は叶わなかったらしい。今は難関だからねぇ。「じゃあ」って頭を切り替えて、今年SIerのウチへの就職を決めたって。「たにがわさんって、もしかして……」って言われて初めて、展示会での記憶がよみがえったよ。

 世界は狭いよねぇ。今じゃマミちゃん、新人ながら父親の会社に食い込んで、営業をかけているよ。あの手この手でさぁ。来年は愛知でロボットの展示会が初開催されるから、出展の準備はマミちゃんに任せてみようかなぁ。

――たにがわさんも悪い人ですねぇ、10年も前に若い女性の心に火を着けて。新人のマミちゃんも、悲願を叶えたわけですね。流行り言葉で言えば「ロボジョ」の走りですもんね。若者の夢の話は、いくら聞いても飽きないし、気持ちがいいですね。


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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