生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.04.09

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#19]老舗ののれん(中)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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<前回記事はこちらから>

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――先週は看板で、話の腰を折ってすみません。いつものでいいですか? ジャックソーダで。先週は結局お出しできなかった「老舗ソーセージの盛り合わせ」もご用意しましたよ。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。何の話だったっけな? そうそう、300年続く老舗百貨店「魁(さきがけ)屋」の話だったなぁ……………。


 百貨店同士が生き残りをかけた経営統合でホールディング(HD)会社を作り、老舗の魁屋も傘下の1店舗になった。HDから経営の合理化と業務の効率化を迫られ、物流部門がそのやり玉に挙がった。専業の物流会社は数多くあり、魁屋の物流子会社「魁ロジスティクス」の物流センターをよほど効率化できない限り、自前にこだわる必要はないと。

 業務の効率化を検討する中で、ロボットの導入を見据えてSIerの俺も呼ばれた。まずは現場の検証から。百貨店の子会社だって聞いてたから、社会見学のような軽い調子で出かけた。

 センターの建屋は百貨店が華だった1970年代半ば、昭和50年ごろの建設だから半世紀近く前の建物。10年おきに2度の建て増しがされ、中は迷路のよう。基本設計が古いから、トラックだって最新の車両は着けられない。規制緩和で車両や荷台が大きくなっても、雨や日差しを避けるひさしの高さが足りず、荷物の積み下ろしにも支障が出ていた。

 魁ロジが自前で持つ配送用のトラックは自社仕様でいいが、センターに商品を納めるメーカーが手配した運送会社はそうはいかない。百貨店が好調だった時代は、運送会社がこぞって魁ロジ向けの専用車を用意した。今じゃ百貨店にその力はないから、運送会社も専用車は用意せず、「傭車(ようしゃ)」と呼ぶ下請けの協力会社に、センターへの配送を任せていた。

 ひさしとトラックの荷台がぶつかるから、荷受け場所にトラックが着けられない。離れた場所に止めて、手降ろしで運ばざるをえない。当然、ドライバーから不満が出る。ドライバーは基本給に、運んだ荷物の数や重さに応じた成果給が加算されるが、配送に手間がかかり作業もきつい。そのうえ、荷物のチェックも厳しく、段ボール箱にすり傷が見つかればその場で受取拒否。「面倒な仕事」だから運送会社も自社ではやりたがらず、下請けの庸車を使うんだ。

 センター内の保管倉庫も時代を感じさせる。鉄製のがっちりとした棚に、荷物を並べる木製のパレットを敷き、その上にびっしりと商品が積まれていた…のはひと昔前までで今は閑散としている。百貨店の店頭やバックヤード、センター内の在庫は全て、百貨店に出店するメーカー所有の在庫。メーカーがセンターに保管料を支払っている。店舗での売れ行きが良くなければ、メーカーもあまり在庫を置きたがらない。虫食い状態の棚が、天井まで続く。

 もっとも、老朽化したセンターの保管フロアの天井高は2mちょっとしかなく、フォークリフトも動かせない。仮に天井高がクリアできても、床の耐荷重がリフトを支えられるかは微妙。建て増しで迷路のような通路でリフトを切り回すのは相当難しいだろう。「ここで自動化して効率化なんてできるのか?」というのが、俺の偽らざる心の声だった。

 さらに、センターには魁屋の包装紙にくるむ専任者がいる。大小、形もさまざまな商品をひと目見て、それに合う定型サイズの包装紙を選び、合うサイズがなければロール状の包装紙を切り出し、ひとつひとつ包装する。

 さらにさらに、これは老舗百貨店だからなのかなぁ。センター内に書家が常駐しているんだ。しかも5人も。普段は書道教室の先生で、教室が始まる夕方までの勤務らしい。畳敷きの一角で、書家が窓に向かって筆を持つ。「何を書いているんだろう?」と手元をのぞき込むと、歳暮や中元、贈答品に張るのし紙に手書きで書いてる。客が選んだのし紙に、あて名や客が希望する文言なんかを、一枚一枚、一文字一文字、丁寧に筆を滑らす。そしてまっすぐ丁寧に商品に張り付ける。「今どきこんな世界があるんだ!」とびっくりしたよ。

 外商が受けた商品は担当の元に送られるか、もしくは担当がセンターに取りに来て、客先に出向き自ら届ける。魁ロジが配送する場合は、包んでのし紙を張った商品に必ず麻ひもを十字にかけるのが魁屋の流儀。すごいでしょ。

 で、ここからが俺の仕事なんだ。どうしたら業務を自動化して効率化できるか? それがまたえらい事になって……。

――ちょ、ちょっと待ってください。まだまだ終わりそうにないですよね。続きを聞きたいのですが、零時を回ったのでそろそろ看板にします。また来週にでも聞かせて下さい。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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