生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2020.12.18

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#9]極上のホウレンソウ(中)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話。アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――先週はすみませんでした。新型コロナ禍で営業時間を短縮したのを、早くお伝えすべきでした。今夜はいつにも増して完全防備ですね?
 そうなんだよ。今週は昼間も寒くてたまらんかったわ。これ以上寒くなったら、何を着てても一緒だね。気休めにしかならん。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。お出しできなかった「ほうれん草とベーコンのサラダ」を今夜もご用意しましたよ。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。え~っと、何の話だったっけ? そうそう、北尾張倉庫での飲料メーカーのホウレンソウだったなぁ……………。

<前回記事はこちらから>

 現場で何を自動化したらいいか分からないんで、労務管理の担当者とベテランパートの洋子さんに、追加であれこれヒアリングした。自動化の端緒でもつかめればと思って。そこでふと気付いた。時折俺たちの方をチラ見して、興味深そうに聞き耳を立てている青年に。

 倉庫会社の敷地の外れに、工事現場にあるような灰皿が一つだけ置かれた喫煙所があって、パートとしゃべっている青年を見つけた。そこで俺も、ポケットからタバコを取り出して一服に加わりながら、話を聞いてみた。

 青年は伊藤君と言って、例の労務管理の担当者の下で働く若者だった。倉庫会社で営業をしていたが、人付き合いが苦手で、いわゆる「倉庫番」として今の部署に来たという。苦手って言っても、それは「初対面の人」との付き合いで、話を聞けばよく話すし、社員はもちろん、現場のパートやアルバイトなどとも話すから、会社や現場の事はよく知っている。何より労務管理の担当者より、現場の困りごとにはやけに詳しいんだ。

 そこで伊藤君に聞いたんだ。「現場仕事で何か困っていない?」ってさ。伊藤君は言うんだ。「要は力仕事をする男手が足らないんですよ。パ―トの洋子さんたちは、自分たちが担当するピッキング作業しかイメージできないですけどね。そりゃ人数が多ければ、その分作業は楽になりますよ。パートが大勢いたって、パレットに積まれた缶飲料を作業台に降ろし、開封してベルトコンベヤーに流す、力仕事する男手がなきゃ、作業が成り立たないんです。力仕事をパートにやらせると、腰が痛いとか言って翌日から来なくなるから」と。
 
 「見ぃ~つけた!」と思ったよ。俺が話を聞くのは労務管理の担当者じゃない。伊藤君とパートの洋子さんなんだ。担当者は、普段接して文句しか言わないパートの頭数ぐらいしか関心がない。不満の芽を早いうちに摘んでおけば、現場は回るしね。学生や外国人実習生は、あまり文句を言わないからさ。倉庫番で、時々フォークリフトでの荷扱いを手伝う伊藤君は、そんな様子を黙って見てたんだ。

 それから毎日、伊藤君とお茶を飲み、昼には近くのめし屋に連れ出して定食を食わせながら話を聞き出した。26歳で独身の彼はよく食うんだ。俺はごはん並み盛りだけど、彼はどんぶりだからね。10時と3時の休憩時間には、喫煙所で洋子さんも交えて缶コーヒーおごってさ。飲料メーカーと取引があるから、缶がへこんで売り物にならない商品を、社内販売で1本50円で売っている。150円で気持ちよく、前日のトラブルや困りごとを報告してくれるんだから安いもんさ。

 洋子さんは洋子さんで侮れない。何せ子どもが保育園に通い始めた20年前からの超ベテランだ。現場の歴史を知っている。「始めて間もない頃は肩がこった。腰も痛かった」と言う。たしかに、他で使わなくなったありあわせのコンベヤーを使い続けてきたからヒザぐらいの高さしかない。

 こんな話を半月ほど続けていたら、何かトラブルがあった時は、洋子さんからスマホアプリのLINE(ライン)で、逐一報告が入るようになった。何もなければ終業時に「お疲れさまです。今日はトラブルなしです」と送られてくるから、絵文字で「Good!」と返せばいい。仲間のベテランパート数人を入れたLINEのグループを作ったから、洋子さんが休みの日は、別のパートがメッセージを入れてくれるんだ。

 そのうち、作業日報の写真まで添付されるようになった。時系列でまとめられているから、どんな飲料を扱った時にどんなトラブルや困り事があるとかが分かる。あとは後日、現物を見て梱包や製品の大きさとか重さとかを調べればいい。

 伊藤君からは、業務の効率化だけでなく、自身のスキルアップの相談までされるようになった。本当は彼、通関士の資格を取って、二国間、三国間で製品を回し、商品に仕上げて輸出入する仕事が夢なんだってさ。そんなことまで話してくれるようになったよ。

――お代わりお作りしましょうか? タバコの煙が目にしみましたかね、伊藤君のスキルアップや夢の話なんて、会ったこともないのに「頑張れよ」と言いたくなりますよ。

=つづく


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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