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2020.11.10

連載

[注目製品PickUp!vol.31]機械要素部品メーカーが誘導システムを開発したワケ【後編】/THK「SIGNAS」

機械要素部品メーカーのTHKは、無人搬送車(AGV)の誘導システム「SIGNAS」を開発した。念頭に置いたのは、生産現場での搬送に対する課題解決。しかし、開発を進めるうちに汎用性の高いシステムに仕上がった。星野京延常務執行役員は「この制御システムを使えば、AGVの用途は広がる。生産現場以外の課題解決にも貢献できる」と胸を張る。

経営理念を体現する製品の一つに

 THKは産業機械業界では、機械要素部品メーカーとして有名だ。直線運動をガイドする直動案内機器を世界で初めて製品化した企業として知られ、代表製品の直動案内機器「LMガイド」やボールねじなど、機械動作の根幹を担う製品を幅広く扱う。

 そんな同社が、なぜAGV向けの誘導システムを開発したのか。

 星野京延常務執行役員は「わが社の経営理念は『世にない新しいものを提案する』こと。LMガイドでもSIGNASでもそれは同じ。既存のものを後追いするのではなく、ゼロから作り、世の課題を解決する精神がある」と明かす。

自律移動型の伸び悩みから得た着想

「自律移動型の搬送ロボットは便利なのに伸びていない。そこにニーズがある」と星野京延常務執行役員

 SIGNASで解決したい課題は、生産現場の人手不足だ。工場内では、加工や組み立てなど生産に直接関わる工程に関しては、機械による自動化が進む。一方、機械間の搬送や加工前の準備は、人が担うケースがまだまだ多い。人が担っている作業の中でも「搬送」は単純作業に当たる。
 
 この搬送作業を自動化すべく、この10年ほどでAGVや自律移動型搬送ロボットの普及が進んだ。しかし、「ある統計によると市場の9割が磁気テープ式。自律移動型の搬送ロボットは便利なのに伸び悩んでいる。そこに新たなニーズがあるはず」(星野常務執行役員)。
 そこで、経路を簡単に設定(教示)でき、低価格で導入できるAGV向けの新たな誘導システムを開発した。

現場で稼働するSIGNASのベースマシンとサインポスト(提供)

 開発当初はレーザーや光ビーコン(発信機)による誘導、電磁波による自己位置の推定など、既存技術を検討したが、装置の金額や搭載スペース、周囲に金属が多い工場内の環境では精度が出ないなどの問題が生じた。
 そこでSIGNASの独自開発に着手した。

工場以外でも使える

「工場以外にも用途はあるはず」と、IMT事業部ロボット部の北野斉部長

 IMT事業部ロボット部の北野斉部長は「直感的な操作で教示でき、サインポストを置くだけで稼働するAGV。工場以外にも用途はあるはず」とみる。

 現在、総合建設業の東急建設と共同で、建設現場でSIGNASを搭載したAGVの実証実験を進める。建設業では、製造業以上に人手不足が深刻で、現場での搬送自動化のニーズもより高い。建設現場でよく使われる「三角コーン」にサインポストを付けて使用する。

 今後は、顧客ニーズに応じたAGVの車体を開発するだけでなく、AGVメーカーに誘導システムとしてSIGNASだけを販売する考えもあるという。工場内の搬送はもとより、建設現場や屋外の農業分野でも応用できると見込む。「可能性は無限大」(星野常務執行役員)と今後に期待する。

(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)

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