2025.07.23
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「簡単で使いやすい」を高度な技術で実現する【後編】/ファナック 安部健一郎 常務執行役員

ロボット活用の裾野が広がる中で「ユーザーがより簡単に使えるロボットが求められている」とファナックのロボット研究開発統括本部長の安部健一郎常務執行役員は話す。これまで自動化されてこなかった作業を「簡単に自動化」するには、ユーザーが意識しない裏側では従来よりさらに高度な最先端の制御技術が必要になる。そのコンセプトを象徴する製品が協働ロボット「CRXシリーズ」で、「ロボット導入の敷居を下げ、心理的なハードルをなくしたい。これまでロボットに触れたことがない方々にも使ってもらえれば」と安部常務は語る。

安全機能からアプリケーション活用へ

――「前編」では、CRXのソフトウエアは発売時から大きく進化しているとのお話しがありました。


 頻繁には更新できないハードウエアはとにかく良いものを選び、ソフトは発売後も随時改良や追加をしていくとの考え方を採用しています。今後ロボット導入が広がるのは、これまでは人が担っていた作業領域です。人はとても柔軟で多様な判断ができ、複雑な作業をこなせます。それをロボットで置き換えるのは簡単ではありません。これには知能化・自律化などの高度な技術が必要で、常にソフトを進化させる必要があります。見えないところで非常に高度な制御をしているからこそ、「ユーザーが何も意識せずに簡単に使える」ことが実現できるのです。


――例えばソフトの進化で何ができるようになりましたか?


 CRXには高感度の力覚センサーを内蔵しているのですが、これは当初は人との接触を検知してすぐに停止する安全性が主な目的でした。しかし今では安全確保だけでなく、さまざまなアプリケーション(ロボットの応用方法)の高度化にも活用しています。一例を挙げると、習字システムにもその技術は応用されています。

習字の繊細な筆使いをロボットで再現(写真は同社の新商品発表展示会2023)

 ――習字システムですか?


  もちろん習字を自動化するニーズはありませんから、これはCRXの能力を分かりやすく伝えるためのデモシステムです。筆を装着したアームを人が手で動かすと、その動きを記録して再現できるようになります。筆の位置や速度に加え力加減も再現できます。書道は繊細な筆使いでトメ、ハネ、ハライなどを表現しなければいけませんから、通常のプログラミングでは不可能です。動きを覚えさせるにはアームを持ってただ動かせばいいのですが、実は裏では高度な処理をしています。

ケーキへのデコレーションをイメージした2023国際ロボット展での展示

 ――習字ができれば、繊細な作業が求められる他の用途にも使えそうですね。


  実際に「習字ができるなら」とケーキのデコレーションのご相談をいただいたことがあります。ケーキの上にきれいに文字や模様を書くには熟練の技術が必要ですが、従来は全て人手で行っていました。これを自動化したいとの案件です。習字システムと同様、職人の方にアームを動かしてもらって動きを記憶させると、デコレーションを再現することができました。このお客さまには今では非常に多くの台数を使っていただいています。職人は絶対に必要ですが、何十人もそろえることは容易ではありません。足りない分をロボットで補うことが可能になります。書く速度を上げたり、ケーキを運ぶベルトコンベヤーを動かしたまま書くこともできます。


――職人の技をロボットに覚えさせるのですね。


 はい、協働ロボットの強みを生かした使い方ですね。ロボットにあまり詳しくない人に協働ロボットをただ見せても導入は広がりませんから、「こんなことができます」と見せていく必要があると考えています。こうした制御技術や、CRXの軽量化などの技術は協働ロボット以外にも役立ちますから、必要に応じて産業用ロボットにも応用しています。習字ロボットに近い技術では今年5月には遠隔操作ロボットを発表しており、こちらは協働ロボットではありませんが同様に力加減まで含めて動作を記憶して再現できます。データ化できればそれを機械学習などに応用することもでき、熟練者や職人の技術をロボットが受け継ぐことができます。


――「機械学習」との単語が出ましたが、CRXは人工知能(AI)にも対応しますか?


 CRXは拡張性が高いロボットで、AIを使いやすいよう開発されています。ファナックの産業用パソコン「iPC」や米国NVIDIAのAIユニット、その他企業の製品などと簡単に接続できます。ファナックの社内でもAIのアプリケーション開発を進めていますが、他社が開発したアプリケーションを使用することも可能です。ファナックは昔は閉鎖的なイメージがあったかもしれませんが、今のロボット開発の考え方はとてもオープンです。ファナックだけでは世界の人手不足を解決できませんので、さまざまな企業と連携してロボットをさらに進化させていければと考えています。

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