ロボット市場これからこうなる、米中次第で変わるシナリオ
共同開発やデジタルツインが必須に ~三治信一朗氏インタビュー~
「貿易摩擦による中国のロボット輸出入の減少は、結果的に中国ローカルのロボットメーカーにとって追い風となった。中国は貿易摩擦で輸出が減っても、国内向けだけで発展できるだけの巨大な市場を持つ。貿易摩擦で輸入が減り、その分の供給を中国メーカーが担うことでロボットの「地産地消」が増えつつある。 品質や技術ではまだ日本のロボットメーカーには及ばないが、3年もすれば品質は高まり、中国メーカーに対するイメージも改善されるだろう。中国のロボットメーカーは今後脅威になる。 中国政府は2015年から中国の製造業を高度化する『中国製造2025』を掲げ、ロボットを重点分野の一つに指定した。一時期は政府からの補助金が豊富で、数えきれないほど多くのロボットメーカーが立ち上がったが、今は補助金を絞っており淘汰(とうた)が進む。この選別を勝ち残ったメーカーは強い。中国のロボットメーカーは、量産しながらその結果をフィードバックして工程を作り込み、品質を高める段階まで既に来ている。 国際競争力を維持するために、日本のロボット産業は何をするべきか。複数のロボットメーカーが共同で研究開発することが必要だろう。自動車業界では共同開発の取り組みが進んでおり、14年には自動車メーカー9社と研究機関などがエンジン関連の基礎技術などを共同研究する自動車用内燃機関技術研究組合(アイス、理事長・平井俊弘日産自動車常務執行役員)も発足した。 ロボットメーカーは会社規模が大きくても、ロボット事業部門は大きくない。各メーカーがそれぞれ全方位体制で研究開発していては、予算や人員が分散して競争力が高まらない。発電の分野では三菱重工業と日立製作所の火力発電事業を統合して14年に三菱日立パワーシステムズ(横浜市西区、河相健最高経営責任者<CEO>)を立ち上げた。ロボット業界でも別組織を立ち上げるなど、研究開発体制の抜本的な見直しが必要だ。 もう一つ重要なのが、システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の大規模化。日本のSIerは中小企業が多いが、数億円以上の大規模案件を次々にこなせるような規模にすることがロボット産業全体の競争力強化につながる。 日本のSIerは機械には強いが、ソフトウエアやITに弱い企業が目立つ。これからは「デジタルツイン」を使いこなすことが重要だ。仮想空間上に現場環境や設備のモデルを再現し、詳細なシミュレーションができる。仮想空間上でさまざまな検証を済ませておけば、システム構築に掛かる時間を大幅に短縮できる。大規模案件を受注するためのSIer同士の連合でも、情報共有などに使える。デジタルツインは、この先非常に重要な技術になるだろう」
――終わり
(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)
※本記事は設備材やFAの専門誌「月刊生産財マーケティング」2020年1月号を再編集したものです。所属・肩書きは取材時のものです。