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2024.05.08

インタビュー

ものづくりサービス業へ/THK 寺町崇史社長

産業機器やロボット、輸送機器などを幅広く手掛けるTHKの三代目社長に、今年1月1日付で寺町崇史氏が就任した。寺町社長は「THKの存在意義は全て経営理念の中に込められています」と説明する。また、同社は2022年に「ものづくりサービス業」への転換をビジョンに掲げた。果たしてその真意は?

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――1月1日付で社長に就任されました。
 THKは1971年に先々代が創業し、私で三代目となります。根幹にあるのは、やはり「ものづくり」です。わが社はボールスプラインという転がり案内のスプライン軸受けの開発製造からスタートしました。これを横軸に使うとたわむとの顧客課題を受け、「下駄をはかせた」とわれわれは呼んでいるのですが、軸を固定した台に取り付けたのが現在の主力製品であるLMガイドの原型です。「顧客課題を解決する」をひたすらものづくりでやってきた会社です。

――現在の顧客課題とは。
 顧客が直面する社会課題が変化してきました。デジタル化や環境保全、労働人口の減少、宇宙開発など課題はさまざまです。その中でTHKが必要とされ続けねばなりません。そこで2022年に「ものづくりサービス業」のビジョンを掲げました。

――ものづくりサービス業とはどういう意味でしょうか。
 ドイツで提唱されたインダストリー4.0は世界中にデジタル化の波を起こしました。モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)、ロボットなどが続々と普及する中で、「物」と「サービス」の両方を通じてでなければ、顧客のビジネスの変化に対応できないことが分かってきました。これまでTHKはグローバル展開と新規分野への展開を二軸として事業を拡大してきました。グローバル展開とは主に海外で販売・生産拠点を設けて現地顧客に貢献することです。新規分野への展開とは、得意技である「直動」を既存分野だけでなく、多くの分野に展開することです。医療機器や鉄道などさまざまな分野に事業を広げてきました。しかし、いずれも物中心のビジネスです。ところが、IoTを活用した機械の遠隔監視が可能になると、ビジネスが物に限定されなくなりました。稼働状況を「見える化」し、そのデータを活用したサービスが実現できるようになったわけです。物だけでなくサービスという新しい軸がなければカバーできない領域が増えています。

――20年にLMガイドなど要素部品の状態を監視するサービス「OMNIedge(オムニエッジ)」を開始されました。
 今まではLMガイドを自社製品に採用してくださる工作機械などの機械装置メーカーが直接顧客でした。しかし、サービス事業では機械装置のユーザー層が直接顧客になるわけです。すると、われわれが製造販売している機械要素部品の新たな課題が見えてきます。経年劣化すれば交換が当たり前ですし、ドカンと止まって機会損失が大きくなるのをどう防ぐかなど、いかに部品を進化させるべきかが少しずつ見えてきました。今までは機械装置メーカーを通じて間接的に社会課題に向き合う形でした。今後はさらにサービスを通じて機械装置ユーザーと共に彼らが直面する社会課題にも向き合って行きたいと思います。例えば二酸化炭素排出量の削減や人手不足への対応、働き方改革などに対応するために部品メーカーがどうあるべきか、何をすればいいのか。そうした意味での「ものづくりサービス業」への転換です。

――自動車など輸送機器事業も同じ流れにあるのでしょうか。
 基本的に同じです。電動化や自律化の波はありますが、「移動」という原則は変わりません。そしてそこにデジタルを活用した空間の活用や乗り手の体験価値の向上などが加わります。すると、部品から発せられる情報を利用して乗り手の満足度を高めるために、THKが得意とする直線運動系の部品が使われる領域が広がります。デジタルを活用したサービスは、産業機器の分野ですでに取り組んでいるため、これをいずれ輸送機器でも応用できればと考えています。

――昨秋のジャパンモビリティショー2023では自社開発の電気自動車「LSR-05」を披露し、非常に注目されました。
 電気自動車に関連する新しい技術は自動車メーカーもどう扱えばいいのかがはっきりしていないことがまだ多いと思います。ならば、われわれ自身でしっかりと実証実験をして提案しようと考えました。そこまでやれば自動車メーカーも「これだけデータがそろっているなら一緒にやろう」となってくれることが期待できます。われわれの技術や部品をより採用してもらいやすい形にするのが目的であり、競合したいわけではありません。目指すのは共創です。

――今後THKが進むべき方向性とは?
 THKの存在意義は全て経営理念の「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」に込められています。創業期はまさに「世にないもの」であったLMガイドを開発しました。そしてグローバル展開や新規分野への展開に力を入れて「世に新しい風」を吹き込んできました。ただ大事なのはこれらの目的が「豊かな社会作りに貢献」であることです。今後はものづくりサービス業に転換し、機械装置メーカーと機械装置ユーザーとともに、より一層この目的達成に向けてTHKグループ一丸となって取り組んでいきたいと思います、究極的には「人類は生存できるのか」といった社会課題が突きつけられている時代ですから。

――最後に休日の過ごし方を教えてください。
 体を動かすのが好きなので、休みには散歩やジョギングをしています。最近はあまりできていないですが、サッカーやフットサルも好きです。子供たちのダンスや野球など、休日はそっちに付き合うこともあります。子供の成長は今しか見られないので、家族とのコミュニケーションの時間を大切にしています。

(聞き手・ロボットダイジェスト編集長 八角 秀)

てらまち・たかし
2003年慶応義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了、住友商事入社。13年THK入社、14年取締役執行役員IMT事業部副事業部長、16年取締役専務執行役員産業機器統括本部長、24年1月から現職。1978年生まれの45歳。

※この記事は「月刊生産財マーケティング」2024年5月号に掲載した内容に加筆し、再編集したものです。

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