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2021.06.29

[特別企画ラボラトリーオートメーションvol.2]実験のやり方を変える! キーマンに聞いたLAの現状と難しさ/第一工業製薬×デンソーウェーブ

「効率化」や「省人化」とは違った切り口を

第一工業製薬の橋本執行役員(左)とデンソーウェーブの澤田部長(右)

――橋本執行役員に聞きますが、御社が目指すLAの構想を教えてください。

橋本 先ほども言ったように研究所では非定常な作業が多いですが、数年前にあるテレビ番組でチャーハンを作る料理ロボットを見た時、「近いうちに研究所にもロボットが普及するだろう」と直感的に思いました。そのため、業界に先んじてロボットを導入したかったのですが、そうすると今まで求められてきた「研究開発の効率化」や「省人化」とは違った切り口を見つけなければなりません。そこで目を付けたのが、人工知能(AI)やマテリアルズ・インフォマティクス(MI、AIやビッグデータなどを通じて新材料や新素材を効率的に探索する取り組み)でした。MIを推進するには、ポジティブデータ(成功時のデータ)もネガティブデータ(失敗時のデータ)も、実験計画に沿った形でデータを集める必要があります。このデータ収集の作業にロボットをうまく活用できれば、実験のやり方そのものを変えられると期待しています。AIやMIと絡めてLAを推進したい思いです。

――「実験のやり方そのものを変える」とは。

橋本 「絶対に失敗する」と分かっていても、本来はさまざまな条件の実験をしなければなりません。新しい発見とは、碁盤の目を一つずつつぶすように丁寧に実験した人にしか得られないものだと思います。しかし、一方では研究の効率化も求められますから、熟練の研究者は勘や経験を頼りにポジティブデータの当たりを付け、実験数を間引いていました。実験数を間引くやり方だけが若い研究者にも継承されましたが、熟練の研究者と同じようにはできません。ですからわが社では今、改めて原点に戻り、ポジティブデータだけでなく人の作業では省きがちなネガティブデータも、実験計画通りに集めようと考えています。さらに、そのデータ収集の前工程に当たる、サンプルの準備作業にもロボットを役立てられないかと模索しています。

「AI模倣学習」で粉体秤量など言語化できない作業を自動化する(写真は2021年1月28日撮影)

澤田 実験に関わる作業をロボットで自動化する上で、2通りのアプローチがあります。一つは熟練者の動き自体をデジタル化して再現する手法で、もう一つは決められた場所に決められた速度で動くロボットの性質を生かし、全ての作業をロボットに担わせる手法です。ただ、橋本執行役員がおっしゃった「実験で使用する化学薬品を専用の容器に入れる」という作業ですが、こうした作業は言語化ができず、ロボットのプログラムを作れません。これに対し、わが社は今年3月、粉体の秤量(ひょうりょう、量りで重さを計ること)などの言語化できない作業をAIで自動化する汎用ソフトウエア「AI模倣学習」を発売しました。AI模倣学習はLAの分野でも役立つソリューションです。

  • 「ロボットを活用し、実験のやり方そのものを変えたい」と第一工業製薬の橋本執行役員

  • 「『AI模倣学習』はLAの分野でも役立つ」とデンソーウェーブの澤田部長

コボッタ導入先である四日市工場霞地区のテクニカルセンター棟(第一工業製薬提供)

――今回は四日市工場霞地区にコボッタを導入しますが、今後の具体的なスケジュールは?

橋本 3段階の構想を描いています。第1段階では、電池材料の開発を手掛けるエレクセル開発部を対象に、今年夏をめどにコボッタを導入します。開発材料を使用した試験電池を専用の検査装置にセットし、データを測定して保存するまでの作業を自動化します。そこで実績を積んでから、次のステップに進みます。第2段階では材料の計量作業や調合作業にロボットを活用できないか模索し、将来的にはMIを進めるためのデータ収集の作業にロボットを役立てたいです。いずれにしても、まずはエレクセル開発部での導入成果をいかに社内展開できるかが重要です。

――ロボットメーカーとして、第一工業製薬をどうサポートしますか。

澤田 自動車業界や食品業界なら、搬送対象のワーク(被加工物)や作業内容を聞けば想像がつきます。しかし、研究所での実験内容は専門性が非常に高く、言葉の意味が理解できないことが多いです。そのため、知識のレベルを高め、内容をしっかりと把握できないと、研究所の自動化をサポートするのは非常に難しいと感じています。今回、縁あって第一工業製薬とビジネスをしますが、自分たちもしっかりと勉強しながら、長くお付き合いができれば幸いです。

――vol.3に続く
(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)

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