生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.03.08

ロボットを事業の柱に、アプリケーション提案で国内市場深耕【後編】/セイコーエプソン内藤恵二郎執行役員

セイコーエプソンは、新たな事業の柱に育てるべくロボティクス事業の強化に取り組む。トップシェアを誇る主力のスカラロボットに加え、垂直多関節ロボットでも新製品の開発を進める。また販売戦略も見直し、具体的な用途(アプリケーション)まで積極的に提案し、日本市場でのシェアアップを図る。ロボティクスソリューションズ事業部長の内藤恵二郎執行役員に、今後の戦略を聞いた。

プログラム作成を簡単に

垂直多関節ロボットも強化を図る

――前編で、垂直多関節ロボットの新製品を開発しているとの話がありました。
 垂直多関節ロボットでは、主力の「Cシリーズ」と、特殊なアーム構造の「Nシリーズ」、コストパフォーマンスを重視したコントローラー一体型の「VTシリーズ」を展開しています。垂直多関節ロボットでは、精度の高さや設置面積の小ささ、スリムで軽量といったコンセプトを踏襲した新製品を開発しています。これからは環境性能もより強く求められるので、消費電力の低減も重視しています。

――近年、安全柵なしで稼動させられる協働ロボットを開発するメーカーが増えています。発売の予定はありますか?

 開発は進めており、2019年末に開かれた「国際ロボット展」ではプロトタイプを発表しました。プロトタイプで把握できた顧客ニーズに対応するため、ターゲット市場や仕様、上市の時期などを見直して開発を継続しています。と言うのも、われわれが作ったプロトタイプは一般的な垂直多関節型ではなく、スカラ型の協働ロボットだったのですが、「スカラ型ならばもっと速度が欲しい」との声が強かったためです。また、協働ロボットに関心のある人の中で、安全柵をなくせることよりも「簡単にプログラムを作成できること」に魅力を感じている人が意外なほど多いことが分かりました。そこで、プログラム作成を容易にする機器・機能は先行して来年度中に発売する予定です。直感的に操作できるタッチパネル式の操作機器や、聞かれたことに答える形で必要項目を入力していけばプログラムを作れるウイザード式・対話式のプログラム機能などを開発しています。

アプリケーション部隊を創設

「国内での販売・サポート体制を強化する」と内藤恵二郎執行役員

――販売面での方針転換はありますか?
 電子機器の受託製造サービス企業(EMS)大手が、中国に加えてベトナムやインドに生産拠点を作ることが増えているので、東南アジアや南アジアでの販売体制を強化します。また、これまでは中国市場の攻略に注力し、売り上げのなかでも大きな割合を占めるまでになりましたが、そちらに気を取られ日本市場が手薄になっていたことも事実です。今、改めて日本国内での販売体制の強化にも力を入れています。現在は東京に拠点がありますが、関西や東北に拠点を置くことも検討しています。実際の販売は商社経由になるとしても、ユーザー企業やシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)とコミュニケーションを取り、サポートすることは重要です。

――どのようなサポートを提供しますか?
 今年度から、アプリケーション、つまりロボットをどう使えばよいかをサポートする専門部隊を創設しました。SIerの手が回らない時など、われわれがシステムの概要を決める構想設計を担当したこともあります。エプソンは自社工場でプリンターなどの組み立てにロボットを使うロボットユーザーでもあるため、アプリケーションの知識は豊富です。これまでは、「ロボットを作って売る事業」という意識が強かったように思います。この考え方を根底から変え、「自動化の価値を提供して、さまざまな産業に貢献する」のがロボティクスソリューションズ事業であると、昨年の4月に定義しました。

ソリューションの幅が広がる

エプソンが技術協力したクラボウの「フラットケーブル高速挿入ロボットシステム」

――「モノ売りからコト売り」にシフトするわけですね。何か具体例はありますか?
 昨年10月に発表されたクラボウの「フラットケーブル高速挿入ロボットシステム」はその一つです。ケーブルと平面状に束ねたフラットケーブルをコネクターに差し込むロボットシステムですが、そこに使われるロボット本体と力覚センサーはエプソンの製品で、われわれが技術協力しています。この他にも他社と協業を進め、基本的なところではロボットハンドや部品を供給するフィーダーのメーカーなどと連携し、コードを接続するだけでそれら周辺機器を使えるようにするプラグ&プレー対応を進めています。

国際ロボット展で参考出品した小型の分光カメラ

――それ以外にも何かありますか?
 2019年末の「国際ロボット展」では、小型の分光カメラを参考出品しました。分光カメラと言われてもあまりなじみがないかもしれませんが、簡単に言えば光の波長の強度分布まで分かるカメラで、色味の検査がより正確にできます。これはプリンター事業で培った技術を応用したもので、印刷物以外にも色味の管理が重要な物は多いと考え、製造業の生産ライン向けに発表しました。直接ロボットに取り付ける機器ではないですが、「自動化で顧客に貢献する」という事業コンセプトに則しています。

――他のロボットメーカーには難しい、セイコーエプソンならではのソリューション提案ですね。
 そうですね。その他、水面下で進めているプロジェクトもいくつかあります。高速・高精度なロボットとセンシング技術、自社工場でのロボットユーザーとしての経験など、自社の強みを生かしながら他社とも柔軟に連携や協業し、これからも自動化を通して顧客に貢献していければと考えています。

(ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)



関連記事:ロボットを事業の柱に、アプリケーション提案で国内市場深耕【前編】/セイコーエプソン内藤恵二郎執行役員

TOP