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2020.01.30

「ロボット半額」時代の到来を予測/サイベックコーポレーション

プレス加工で異彩を放つサイベックコーポレーション(長野県塩尻市、平林巧造社長)が減速機市場に本格参入する。歯形形状で特許を持つ独自のサイクロイド減速機で、ロボット市場の開拓に乗り出す。「現在の産業用ロボットほど高い位置決め精度が必要ない用途向けの、安価なロボットの需要が今後間違いなく増える。ロボットの本体価格を半額にするには、わが社の減速機が必須」と意気込む。

減速機市場に本格参入

地下11mにある「夢工場」には金型製造用の最新鋭の機械が並ぶ

 長野県塩尻市のサイベック本社工場は、南アルプスを望む工業団地の一角にある。本社工場から農道を隔て、ブドウ畑に囲まれたのどかな場所に広がる駐車場と平屋建ての建物。こここそがサイベックの「夢工場」だ。

 正確には、駐車場の地下11mの場所に最新鋭の工場が広がる。夢工場では、地上では実現できない振動の少なさと、±0.3度の幅で管理された23度の恒温環境で、超精密な金型部品を製造している。
 切削加工で作られていた家電やドットプリンター、自動車などの部品を、より生産性の高いプレス加工で製造することに成功し、近年は医療分野にまで進出したサイベック。高い技術力を持って取り組むのが、減速機市場への本格参入だ。

サイクロイド減速機に使用する歯車用の金型

 市場参入に向けて開発を進めるのが、独特の歯形形状の歯車3つで構成されたサイクロイド減速機だ。
 サイベックが製造するからには並みの歯車ではない。歯車を切削加工ではなく、超精密な金型を使ったプレス加工で1枚の板から量産する。
 ではなぜサイベックが減速機なのか? 

減速機にコストダウンの動き

「ロボットの本体価格の半分を減速機が占める」と語るVT研究所の白鳥達也主幹技師

 サイベックはロボットでの採用を目指して開発を続けている。
 サイベックで技術開発を担うバリューテクノロジー(VT)研究所の白鳥達也主幹技師は「ロボット本体の原価で、減速機が占める割合が非常に高い。一カ所の関節で2個使うとすると、6軸なら減速機が12個必要。減速機の仕様にもよるが、仮に1つ10万円としても6軸なら120万円。小型のロボットなら本体価格は200万円から300万円ぐらい。ロボット価格の半分近くを占めるのが減速機」と解説する。実際の導入には、ロボット本体の他にハンドなどの周辺機器が必要で、そこにも相応のコストがかかる。
 「だからこそ減速機はコストダウンの取り組みが進む」と田中健一主幹技師は捕捉する。

「減速機こそコストダウンの取り組みが必要」と田中健一主幹技師

 産業用ロボットの用途の中には、搬送など高い位置決め精度が求められない作業もある。また人の作業を補助するパワードスーツや各種サービスロボットなども今後ますます増えていく。
 これらのロボットに使われる減速機は全て、切削加工した歯車を組み合わせたもの。高い位置決め精度が求められない製品にも、切削加工で作られた高精度だが高価な減速機が使われているのが現状だ。
 現在のロボット用減速機は高精度で、歯車同士のすき間が限りなくゼロに近い。ロボットに組み込んだ時に、高い位置決め精度を実現できる。しかし、切削加工で製作する歯車は価格が高く、減速機そのものも重い。

 「切削加工では、これ以上のコストダウンは無理でしょう」と白鳥主幹技師。減速機に求められる精度はそれぞれだが「高精度だが高価な物しかないので使わざるを得ないのが現状」と田中主幹技師は話す。
 サイベックはここに目を付けた。得意の金型技術とプレス加工の技術で歯車を作り、組み立てて減速機を製造できないか?

独自の歯型で特許も

 サイベックの減速機は、「サイクロイド歯車」と呼ばれる歯形形状の歯車を組み合わせた、サイクロイド型減速機。独自の歯形で特許も取得している。サイクロイド歯車は、通常の歯車加工機では加工しにくい形状だ。

昨年12月の「2019国際ロボット展(iREX2019)」に出展して評価を得た

 「プレス加工による歯車の製造コストは、切削加工した歯車の10分の1。仕様にもよるが、減速機の価格は半分から3分の1になる。他の部分でもコストダウンが進めば、ロボットの本体価格を従来の半額にすることも可能。プレス加工では、熱処理した後に仕上げ加工をしない分、歯車としての精度は劣る。それでも減速機の性能への影響が小さくなるような歯形形状を研究して開発した。導入事例の多いハーモニクス型に求められる精度と同じ土俵で勝負しても仕方がない。ハーモニクス型のような高機能減速機と、汎用減速機の間の市場を狙う」と白鳥主幹技師は語る。
 プレス加工したサイクロイド歯車で構成する減速機は薄く、コンパクトにできるのが特徴。高い減速比で何よりも低コストに抑えられる。

 サイベックは2018年に、VT研究所内にプロジェクトを立ち上げ、自社ブランドでサイクロイド減速機の標準化を目ざして取り組む。減速機として組み上げたものを自社で評価できるよう、評価装置も導入した。
 「既に個別の特注案件では試作品を作っており、昨年12月の『2019国際ロボット展(iREX2019)』にも出展して評価を得られた。今年から標準品を市場に出したい」と白鳥主幹技師は語る。

 すでに産業用ロボットメーカーからも引き合いがあり、コストダウンした減速機の需要は高いと見る。
 「現在主流の産業用ロボットはピラミッドの頂点だが、出荷数も限られる。頂点より少し下の、コンパクトサイズで安価なロボットや、自動搬送など簡易な用途のロボットの需要は今後ますます増える。そこを狙いたい」と白鳥主幹技師は期待を込める。

(ロボットダイジェスト編集部 長谷川 仁)

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