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2019.09.17

連載

[気鋭のロボット研究者vol.8]CAMでロボットの動作プログラムを【後編】/金沢大学浅川直紀教授

産業用ロボットを使ってバリ取りや面取り、磨きなどの加工を自動化する研究に力を注ぐ金沢大学の浅川直紀教授。ティーチング(ロボットに動作を覚えさせる一般的な方法)でロボットを動かすのではなく、「CAM」と呼ばれるソフトウエアを使って動作プログラムを生成しようと模索する。CAMを使う時に重要なのは「一つ一つの作業を数学的に表現すること」と強調する。

あり得ないプログラムができる!?

CAMを使ってロボットの動作プログラムを生成する

 浅川直紀教授は、ロボットを使ってバリ取りや面取り、磨きなどの加工を自動化する研究に取り組む。

 ロボットは通常、実機を動かしながら動作を覚えさせるティーチングで動作プログラムを生成する。しかし、ティーチングの作業は難しく、時間がかかる。
 前編でも紹介したが、浅川教授は「ティーチングレス主義」を掲げる。3次元(D)CADソフトウエアで設計した部品のデータから、「CAM」と呼ばれるソフトを介してロボットの動作プログラムを作ろうと模索する。

 CADとは、コンピューター上で設計データを作成するためのソフトのこと。一方、CAMは、CADデータを基に加工プログラムを生成するソフトだ。
 工作機械などを使う金属加工の業界では、CADと併せて一般的に使われている。

加工の自動化を研究テーマに掲げる浅川直紀教授

 バリ取りや磨きなどの加工を自動化する場合、6軸の垂直多関節ロボットが主に使われる。
 一般的な工作機械よりも制御できる軸数が多く自由度が高い。だが、CAMをロボットに応用するには考慮するべき点もあるという。

 「加工点の位置だけではなく、ロボットに取り付けた刃具の向きや、刃具を動かす方向を正確に指定しなければならない。こうしたことを意識せずにCAMを使うと、ロボットの姿勢が大きく変化し、あり得ない動きをするプログラムが作られる可能性がある」と浅川教授は指摘する。

一つ一つの作業を数式で表す

部品の測定にロボットを使った事例

 これを防ぐにはどうしたらいいのか?
 浅川教授は「ロボットがバリ取りや面取りなどの作業をする時に求められる姿勢の情報を正しくプログラムに盛り込む必要がある」と説く。そのためには「一つ一つの作業を数学的に表現することが大事」とも続ける。

 「数学的に表現する」とは端的に言えば、作業の内容を数式に落とし込むことだ。
 浅川教授は、刃具の向きと刃具を動かす方向を2本のベクトル(数学用語。大きさと方向を持った量)で表す手法を考案した。2本のベクトルから導いたロボットの姿勢の情報と加工点の位置情報を基に、動作プログラムを生成する。

 一つ一つの作業を数式で表すためには、その作業の本質を理解しなければならない。
 そのため、浅川教授は企業からバリ取りなどの機械加工の自動化に関する相談を受けると、その企業の現場を訪ねる。自動化を検討している作業を実際に確認し、担当者に「なぜその作業をするのか」と問いかける。そこで得られた回答から作業の本質を捉え、その作業に最も適したベクトルを決めるという。

 今後は、加工だけではなく測定にもロボットを応用する考えだ。「現場でのちょっとした検査作業を自動化したい」と浅川教授は意気込む。

――終わり
(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)


浅川直紀(あさかわ・なおき)
金沢大学 設計製造技術研究所 教授
1991年4月電気通信大学助手、98年5月同大学講師。同年8月に金沢大学講師に。2002年10月同大学助教授、07年4月准教授、13年10月教授。19年6月から現職。産業用ロボットの研究に携わってもうすぐ30年を迎える。ロボットの魅力を「自由度の高さ。これに尽きる」と熱弁する。趣味はオートバイやスキー。1965年4月生まれの54歳。長野県出身。

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