• インタビュー
2019.03.08
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[特集SIerになろうvol.13]ロボット産業のこれまでとこれから/小平紀生氏

変化するパートナー関係

「技術力のあるSIerと組むことがロボットメーカーにとって重要になった」と話す小平氏

 2000年代の初めには、各ロボットメーカーがSIerを集めてパートナー会を組織し始めた。当初は各メーカーとそのメーカーのロボットを扱うSIerが強くひも付いていたが、10年代に入ると技術力のあるSIerが複数のメーカーのロボットを扱うことが増え、ロボットメーカーにとってもそうした力のあるSIerと組むことが重要になった。  複数メーカーのロボットを適材適所で使えるのは技術の高いSIerで、そうしたSIerに使ってもらえてこそ優れたロボットの証明になる。  最近は高度で複雑なロボットシステムが増えた。ライン生産では、1台1台のロボットが担う作業は単純だ。一方、ロボットの裾野が広がるとセル生産に使われることも増え、セル生産では1台で複合的な作業が求められる。その場合、ビジョンセンサーなどを使って知能化すれば位置決め機構のような周辺機器の一部を省略でき、システム構築の手間やコストを削減できることもある。SIerにもユーザーにもメリットがあるが、こうした付加価値の高いシステムの提案は、技術力のあるSIerでなければ難しい。

国際競争力を維持するには

 昨年、SIerの団体としてFA・ロボットシステムインテグレータ協会が発足した。1社単独やメーカーのパートナー会ではできない課題の解決に取り組む。SIerの経営基盤が強化されることは日本のロボット産業にとっても重要だ。  日本のロボット産業が直面する課題はたくさんある。その一つが中国の台頭だ。ざっくりしたイメージで言えば、中国のロボット産業は3年前まで日本の7割程度の技術力だった。これは日本のロボットを分解してまねすればできるレベルだ。しかしその後に急速に力を付け、今や8割のレベルまで達した。国策として世界に冠たるロボット製造国を目指しており、追い上げは加速している。  今後も日本のロボット産業が競争力を維持するには、システムエンジニアリングの豊富な経験と、工学的な基礎研究も含めた要素技術、簡単にまねできないこの2つが鍵になる。ユーザー、メーカー、SIer、部品メーカー、材料メーカーの全てが高いレベルにあり、互いに鍛えあい高めあっていることが日本のロボット産業の強みだ。

強みを明確に

「SIerは自社の強みを明確に」と小平氏

 近年、ロボットのユーザー企業の生産技術部門や、設備材メーカーがSIer業界に参入するケースが少なくない。ユーザー出身のSIerは、当然のことながら自社に近い業界には強く、得意分野が明確。このように得意分野をはっきり示せることが大切だ。地場の専用機メーカー、大企業の生産技術部門、設備材メーカーなど、バックボーンが異なれば強みも変わる。  「何でもできます、何でもやります」が一番良くない。近年はSIer同士がアライアンス(連合)を組んで大きな案件に当たることも多いが、「何でもやります」ではユーザーからも同業者からも選ばれない。  SIerはロボットに捉われる必要はない。経済産業省の統計を見ると、ロボットの生産額は1兆円ほどだが、生産に関わる設備や機器を足すと16兆円にもなる。ロボットが得意じゃなくてもいい。SIerはロボットではなく、FA(ファクトリーオートメーション=工場の自動化)や生産技術のプロフェッショナルであるべきで、ロボットメーカーは生産技術のプロの期待に製品で応えるべきだ。日本の製造現場では、生産技術のプロフェッショナルが足りない。そこにビジネスチャンスはあると思う。

(構成・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)

小平紀生(こだいら・のりお) 1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会ロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、66歳。 関連記事:[特集SIerになろうvol.0]これほどの成長産業は他にない

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