• 連載
2021.12.21
★お気に入り登録

[ロボットが活躍する現場vol.15]釣り具をつり上げピッキング/ハヤブサ

楽しそうだったから 

76台の箱型ロボットが走り回るグリッドエリアは67×76列ある

 オートストア導入の決め手は何だったのか? 物流センターの建設を担当したハヤブサの歯朶哲也常務は「動画で見た海外の物流センターの従業員が、イヤホンで音楽を聴きながら楽しそうに作業をしていたのが印象的だった」と話す。物流現場での仕事と言えば、辛くて厳しいのが一般的。「指示書を見ながら商品棚の間を歩き回り、商品と数を間違えないよう注意しながらピッキングを続けるのは重労働だった」と歯朶常務は話す。  当初は、本社社屋内で導入したマテハン機器の最新型を導入する案を前提に計画が進んでいた。新型の機器で使用する周辺機器を探すため、物流の展示会を見学する中でオートストアに出会った。この時の事を歯朶常務は「非常に印象に残った」と話す。既存の自動倉庫の延長では、売り上げ増加に対応できるのか疑問を感じてもいたからだ。 

 ハヤブサは2019年1月、34億円だった売上高を25年までに倍増させる方針を発表した。センター稼働の2年前だ。歯朶常務は「既存の倉庫システムの更新では、繁忙期のピークに対応できないと考えた」と言う。当時、ピーク時はほぼ毎日24時間倉庫を連続稼働しても、受注から出荷までのリードタイムは3日から4日かかっていた。  イメージとしては、週末に釣具店で売れた商品の補充や追加のため、日曜夜から月曜にかけて受けた注文を、木曜と金曜に出荷し、土曜の朝までに店に配達する感じ。遅れれば商機を逃す。さらに売上高の倍増を目指せば「とうてい対応できない」と歯朶常務は考えた。    さらに、ハヤブサの近隣ではアウトレットモールが開業し、物流企業の拠点の開設が相次ぎ「人手は取り合い。今後5年、10年先を考えると人材確保は難しくなる」と歯朶常務は危機感を持った。そこで、以前から気になっていたオートストアの導入も候補に入れて検討。オートストアを導入した物流拠点も見学して確証を得たという。  とはいえ大型投資でもある。歯朶常務は社内に向けて何度も説明会を開いた。説明会では以下の点を強調した。①ハヤブサ製品のほとんどがオートストアのコンテナに入るほど小さい②オートストアを導入すれば人の動きを8~9割を削減できる③釣り具以外のアパレルやペット用品の保管に複数の倉庫を借りておりコストもかかる。拠点集約で人員を有効活用すれば年間5000万円のコスト削減が可能④釣り具をオートストアで管理し、従来の倉庫をアパレルとペット用品の保管に転用すれば職場環境改善も期待できる――の4つだ。こうしてオートストアの導入が決定。今年1月から稼働した。

箱型ロボットは壁際の待機場所に移動して自動で充電する
検品が終われば商品は宅配便で出荷する

停電を機にBCP対策

物流センターの建設を担当したハヤブサの歯朶哲也常務

 思わぬトラブルもあった。関西電力の設備の不具合で今年10月、大規模な停電が発生した。この停電で、ハヤブサのオートストアも全停止。復旧までに2時間かかった。歯朶常務は「停電を受け、改めて社内の事業継続計画(BCP)の重要性を認識した。早速社内でもBCPの策定を始めた」と語る。12月3日には、山梨県東部を震源とする震度5弱の地震に続き、和歌山県を震源とする震度5弱の地震があった。ハヤブサでも揺れを感じたが、オートストアは無事に稼働を続けたという。  「予想外のメリットもあった」と歯朶常務は語る。ハヤブサのレイアウトは作業者の頭上にオートストアがあり天井が少し低い。「冬場の暖房効率が高くなった」と話す。  今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、売上高の倍増方針は「見直しを余儀なくされた」と歯朶常務は話す。海外の生産工場の生産停止と物流の混乱で、釣り糸や釣り針などの製品の入荷が遅れ、受注に対応できなくなったためだ。  現時点では業績は伸び続けているが、稼働した物流センターは「オーバースペックな倉庫というのが実情」と歯朶常務は話す。ただ「その先を見据えての大型投資で、現場の改善にも大きく寄与したことで、数値だけに捉われない経営改善ができたと思う」と話す。

(ロボットダイジェスト編集部/長谷川 仁)

関連記事:[ロボットが活躍する現場vol.14]協働使って夜間を無人で/酒井鋼管 関連記事:[ロボットが活躍する現場vol.13]立ち食いそば屋でロボットが麺をゆでる

★お気に入り登録

BASIC KNOWLEDGE