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2020.10.16

連載

[注目製品PickUp!vol.29]追従して人間のよきパートナーに【後編】/トヨタL&Fカンパニー「AiRシリーズ」

豊田自動織機の社内カンパニーのトヨタL&Fカンパニーが開発したモバイルロボット(自律走行ロボット)「AiR(エア)シリーズ」は、独自方式の追従機能で作業者の後ろを正確に追いかける。これまで荷物の運搬で台車を押していた手間を省くことができる。さらに自律走行モードを切り替えれば、荷物をAiRに積んでボタンを押すだけで、自動で指定した場所まで運んでくれる。これまで同社はフォークリフトなどの大型の荷物を運搬する設備を製造してきたが、インターネット通販などの普及で小口の荷物を運ぶニーズが高まり、小型の自律走行ロボットの開発に至った。

小口の荷物を素早く運ぶ

 トヨタL&Fカンパニーは、これまでフォークリフトなど大型の荷物を運搬する設備を製造してきた。
 小型で少量の荷物を効率よく運搬できるAiRの開発について、「物流業界で荷物が細分化する傾向があり、小口の物を素早く運ぶニーズが増えたため」と一条恒R&Dセンター長は説明する。

小口の荷物が増加(豊田自動織機調べ)

 今回の新型コロナウイルス禍でも顕著に見られたように、近年ではウェブを活用して物を売買する電子商取引(eコマース)が増加。それに伴い、大量の品を一度に運ぶ大口ではなく、細かく分けて運ぶ小口の物流が拡大している。
 
 そうした市場の変化に対応するため、同社では顧客の物流センターの自動化提案を強化。情報収集から判断、指示、確認までを省人化できるシステムを構築して、スムーズな荷物の細分搬送に応える。そして、多品種で少量の荷物を管理する物流倉庫で作業者の負担を軽減できる製品としてAiRを開発した。

足を見て付いてくる

搬送タイプ「AiR-T」のデモンストレーション

 これまでの無人搬送車(AGV)と違うのは、人の後ろに付き従い、作業のサポートをする「協働」の点だ。それを実現するには、優れた追従機能が必要だった。
 AiRは2017年から開発が始まったが、追従の技術は同じトヨタグループの豊田中央研究所でそれ以前から研究していた。その研究成果を実装した。

 赤外線などを発信するビーコン(発信器)を感知させたり、作業者ごとの識別番号(ID)を識別装置に読み込ませて追従させる仕組みではない。前後に取り付けた光学式レーダーによって作業者の足を認識して追いかける。そのためビーコンの受け渡しや、専用の読み込みシステムを作る必要はなく、ボタンを押した人に付いてくる。

 追従で重要なのは、前を歩く人に不安感を与えないこと。そして急停止してもぶつからない安全面も考え、距離を保った状態で人が通ったルートを一定時間内に通過するようプログラムされる。人とロボットの距離は、作業者が調整できる。

連結させれば1人で複数の運搬も

「物流倉庫だけでなく、使われる場所の幅を広げていきたい」と一条恒R&Dセンター長

 他のAiRの後を追う「カルガモ機能」もあり、人を先頭に複数台を追従させることも可能。連結器などで機械的につなげるわけではないため、何台でも並べて使える。また、1台ずつが独立して動くため、機械的につなぐ場合と異なり、全車同じ軌跡でカーブを曲がる。これにより、後続車が棚などに接触する心配がない。また、個別に障害物回避もできる。

 追従する作業者の進む方向と速度から足の位置を予測して動くため、仮に別の作業者が人とAiRの間を横切っても、進行方向の違いから間違って付いていくことはない。
 人混みで使うには追従や回避機能に課題もあるが、「今後はその課題を解決することで、物流倉庫の作業だけでなく、空港やショッピングセンターなどでも使用できる製品を目指す」と一条センター長は言う。

(ロボットダイジェスト編集部 渡部隆寛)

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