生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2020.09.01

インタビュー

ロボットの多能工化が進む 、工業高校の必修科目に/日本ロボット工業会 小笠原浩 会長

世界をリードする日本の産業用ロボット業界。5月に日本ロボット工業会の会長に就任した小笠原浩氏(安川電機社長)は「多品種少量生産の時代にはロボットの多能工化が進む」と指摘する。業界の課題は人材育成・確保とし「ロボットに何がどこまでできるかが分かる技能職がもっと現場に必要。工業高校や高等専門学校ではロボットを必修科目にしてほしい」と強調する。

コロナのリスク管理にロボット

――新型コロナウイルス禍で厳しい時期にロボット工業会の会長に就任されました。
 コロナ禍で社会はどんどん変化しています。マスクをして人に会うのも、ウェブで仕事の打ち合わせをするのも当たり前になりました。また、いくら感染症の危機があるからといって、生産現場を止める訳にはいきません。「誰でもいつでも感染する可能性がある」との認識は間違いなく世の中に浸透します。リスク管理は経営者にとって長年の課題。近年は事業継続計画(BCP)が重視されていますが、今回のコロナ禍でBCPに感染症対策も盛り込まねばならないとの意識が刷り込まれました。

――ロボット産業にとって何が変わりますか。
 要は、感染者を出してもいかに工場を止めないようにするか。人と人との距離を保つのが重要で、その隙間を機械で補完するとの考え方が主流になるでしょう。仮に感染者が出ても、生産ラインを何日も止めて対応するのは現実的ではありません。事前にソーシャルディスタンス(人同士が十分な間隔を保つこと)を確保した工場レイアウトならば、対応が必要な場所は限定されます。せいぜい一日休止すればいいとか、そのエリアだけ消毒すればいいとか、リスクの度合いによって適切に対応できるわけです。実際、わが社(安川電機)ではその前提でさまざまな実験をしています。このように、新しい工場の形を模索する中で、先頭を走る存在がロボットです。

「ユーザーやSIerをどんどん支援してほしい」と話す小笠原浩会長

――2015年に政府がロボット新戦略を発表してからロボット産業へと吹く風向きが変わりました。
 過去のロボット政策との一番の違いは、ロボットメーカー側の技術開発よりも、ユーザーやシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー:ロボットの導入をサポートする専門事業者)側を積極的に支援していることです。ロボットは実際に使われる際に個別のアプリケーション(アプリ:特定用途に応用・適用させるためのシステム)が必要になります。工業会としては、ロボットメーカーよりもむしろ、新しいアプリを使うユーザーやSIerをどんどん支援してほしいと考えます。

――政府とはうまく連携できている。
 政策の方向はいいと思います。しかし金額が足りない。ドイツの総予算とは二桁も違います。一桁ならまだしも二桁です。ドイツはインダストリー4.0の発祥国ですし、自動車産業を中心に、SIerの社会的な位置づけもされています。大規模な予算を使って国際的に存在感を高めようとの気概が見られます。中国でも最近はロボットメーカーだけでなく関連分野への補助金も増えてきました。ロボットは使ってナンボ、浸透させてナンボとの考え方でしょう。日本では、予算の付け方が難しいのは承知していますが、ドイツや中国と比べると、国としての気合の入れ方がはっきりと違うのが分かります。ここは政府としっかり話し、強化してもらわねばなりません。

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