2025.12.03
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[特集2025国際ロボット展vol.13]ヒト型ロボット市場はいずれ自動車並みに

静観はリスク

三菱総合研究所

シンクタンク部門 先進技術センター

中村 裕彦

 

 ヒト型ロボット開発の最前線は、圧倒的に米国と中国が中心です。日本でも参入する企業はありますが、米中の勢いには及びません。過去に何度かブームがあったものの、ビジネスにそれほど結び付かなかった経験から、日本企業は慎重になっているのではないでしょうか。

 

 ただ、現在のヒト型ロボット開発の盛り上がりは、AIの発展との点でこれまでと一線を画します。視覚情報と言語情報を統合して処理できる視覚言語モデルが登場し、簡単な指示でヒト型ロボットに複雑な動作をさせられるようになりつつあります。加えてデジタルシミュレーション技術も向上し、実機を使わずに細かな検証を重ねられます。要素部品を含むハードウエアは、劇的ではなくとも着実に進化しており、稼働時間や安全性の向上につながっています。

 

 市場規模は今後ますます拡大し、台数ベースではいずれ自動車市場に匹敵するとの予測もあります。しかし用途としては、コミュニケーションや家事の補助などを目的とする家庭向けがメインになるとみています。人間と緊密に動く必要があり、非定型な作業の多い環境にヒト型ロボットが向くからです。工場や倉庫などでの運用を目指した実証実験も活発ですが、こうした現場ではヒト型ロボットならではの利点を生かしづらく、産業用ロボットから置き換わるのは一部でしょう。

 

 ではヒト型ロボットの隆盛は産業用ロボットと無関係かというと、決してそうではありません。ヒト型ロボットの開発が進めば、モーターやセンサーなど要素部品の技術も進化します。エンドエフェクターや周辺機器も同様です。当然ながら産業用ロボットにも転用できるため、それらを取り入れたロボットが技術的優位に立つ可能性が高いです。

 またヒト型ロボットの生産台数の増加は、部品加工業にとってビジネスチャンスになります。その意味で、ヒト型ロボットの動向をただ静観することは、メーカーやサプライヤーなど関連企業にとってリスクとなります。

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