[SIerを訪ねてvol.63] 油圧プレス機に自動化技術を組み合わせて付加価値創出を/岩城工業
自動車関連向けに油圧プレス機を製造する岩城工業(愛知県弥富市、伊坪秀幸社長)は2024年、システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)事業に新規参入した。同社は「顧客の要望をゼロから形にできる提案力」を武器に、プレス成形後のバリ取りや外観検査などの自動化システムを構築する。FAロボット事業課の新宮祐太課長は「油圧プレス機に付帯設備の自動化技術を組み合わせることで付加価値を高め、競合他社との差別化を図りたい」と話す。
SIer事業に新規参入
岩城工業は1980年の創業当初から自動車関連向けに油圧プレス機を製造する。オーダーメード設計を得意とし、機械設計から電気設計、部品加工、組み立てまで幅広く手掛ける。油圧プレス機の付帯設備の自動化提案を強化するため、24年にはSIer事業に新規参入。新たにFAロボット事業課を立ち上げると同時に、他のSIerで経験を積んだ人材を即戦力として2人採用し、新卒社員を含めた3人体制でSIer事業を早期に軌道に乗せる体制を整えた。
新宮課長は「プレス業界は深刻な人手不足に直面しており、自動化需要は高い。そのため、油圧プレス機に付帯設備の自動化技術を組み合わせることで付加価値を高め、競合他社との差別化を図りたい」と話す。
バリ取りシステムに注力
同社は現在、プレス成形後の接着剤塗布や外観検査などの自動化システムを中心に、構想設計から機械設計、電気設計に加え、部品加工から組み立て、据え付けまで一貫して対応する。特に注力するのがバリ取りの自動化だ。
現在顧客からの依頼を受け、2台のロボットを用いたバリ取りシステムの製作を進めている。納入先の業界や被加工物(ワーク)の詳細は明かせないが、コンベヤーから運ばれてきたワークを1台目のロボットが把持し、手首を360度回転させながらリューターと呼ばれるバリ取り工具でバリを除去する。その後、処理済みワークを仮置き台に置くと、ロングリーチの2台目のロボットがワークを拾い上げ、パレットに積載する。その際、ワークに削り跡の段差が残っている場合は、2台目のロボットが段差を除去してから積載する。最後にパレット内のワークが一定数に達すると、コンベヤーで焼成炉に搬送する仕組みだ。
新宮課長は「そのワークは焼成炉で焼き入れする前は非常にもろく、破損しやすい。そこで、トルクセンサー付きの3つ爪ハンドを採用し、一定以上の力が加わると自動停止する仕様にした。これで、ワークの破損を防ぎつつ安全に把持できる」と説明する。
人材育成と採用活動を強化
岩城工業のSIer事業の最大の強みは、「顧客の要望をゼロから形にする提案力」にある。主要顧客である中小規模のプレス加工会社は自動化システムの導入経験が乏しく、要求仕様が整理されていないケースも多い。そこで、同社は顧客の声を丁寧に聞き取り、要望に適した自動化システムを一から構築する。そのプロセスを支えるのが、実機を用いたテストや検証が可能な本社工場内のテストルーム「ROBOT FACTORY(ロボットファクトリー)」だ。ロボットファクトリーには、三菱電機の垂直多関節ロボットが常設されており、顧客と自動化システムの構想をすり合わせながら、設計開発を進められる環境が整っている。
こうした強みを生かし、岩城工業が今後目指すのはプレス工程の完全自動化。その実現に向け、現在は業種や企業規模を問わず多様な自動化案件に取り組み、ノウハウや知見を蓄積している段階だ。だが、現状はプレス事業とFAロボット事業課の連携は限定的で、ノウハウや知識の共有が十分に進んでいない。また、FAロボット事業課でも人手が不足しており、事業をさらに拡大するには人員体制の強化が急務だという。
新宮課長は「今後はプレス事業との連携を深めつつ、人材育成と採用活動もより一層強化し、プレス工程の完全自動化の実現を目指したい」と意気込む。
(ロボットダイジェスト編集部 山中寛貴)

