ロボットの多能工化が進む 、工業高校の必修科目に/日本ロボット工業会 小笠原浩 会長
国際的な優位性を保てるか
――日本のロボット産業の国際的な優位性は保てますか? 日本ロボット工業会のメンバー間で健全な競争をやっていれば、そうそう海外勢に負けることはありません。例えば中国は大量生産に長けた国なので、大量生産向けのロボットが大量に作られる可能性はあります。しかし、ロボットは本質的には量産品ではありません。最終的な使い方は、現場によってバラバラだからです。世の中は常に変化するため、それに応じてロボットのアプリも進化し続けるわけです。 ――工業製品は量産から多品種少量生産へとシフトしています。 量産では、ベルトコンベヤーを並べた直線的なラインで人もロボットも単純な作業をしていました。多品種少量生産になるとセル生産に変わり、人は多能工化しました。今後はそれと同様に、ロボットの多能工化が進みます。同時に「人とロボットがいかに共存するか」も重要になります。この方向性でどのメーカーも必死に知恵を絞っているところです。
――メーカー間の協調と競争の線引きが難しい。 各社で仕様がバラバラではユーザーが大変ですから、ある程度は標準化を進めねばなりません。しかし行き過ぎた標準化はロボット自体の進化を止めてしまいます。例えばコンピューターはマイクロソフトとインテルが主導する形で標準化が進みました。集積度は高まり洗練されましたが、コンピューターそのものの進化も止まっていたんです。ロボット業界では、標準化の弊害が起きない範囲で、ある程度まではメーカー間で歩調を合わせる必要があります。そのギャップをうまく埋めてくれるのがSIerと言えるでしょう。 ――任期中の2年間で何をしますか。 特に力を入れたいのは人材の確保と育成です。ユーザーの生産現場で、ロボットが分かり、自分でロボットに触れる技能職を増やさねばなりません。中国では一般の書店で、日本や欧州の大手ロボットメーカーの海賊版の操作マニュアルが売られていると聞いたことがあります。その是非はさておき、ロボットに触れる人がそれだけ増えるので、裾野の広がりが全く違うわけです。日本では、まずは工業高校や高等専門学校の電気科や機械科でロボットを必修科目にしてもらいたい。ロボットで何がどこまでできるかを知っている現場の人材がたくさん出てきてほしいですね。
(聞き手・ロボットダイジェスト編集長 八角秀)
小笠原浩(おがさわら・ひろし) 1979年九州工業大学情報工学科卒、安川電機製作所(現安川電機)入社。2006年取締役モーションコントロール副事業部長。インバータ事業部長、モーションコントロール事業部長などを経て13年取締役常務執行役員、15年代表取締役専務執行役員、16年社長。20年5月から現職。愛媛県出身。1955年生まれの64歳。