[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.6]40歳で突然の異動、事業部門の管理職に【前編】/小平紀生
会社生活が一変
ソフトウエア開発のマネジャーはスタッフ的な立場で、研究所生活とは多少の連続性がありました。しかし設計課長となると、技術面の実質的な責任者ですので、会社生活は一変しました。
まず、時間の流れ方が違う。研究所ではせいぜい週単位の計画でマイペースに活動していたものが、今度は15分単位で計画的に動かなければなりません。
組織管理、コスト管理、計画立案、実績評価、上司への報告やスタッフとの調整など、事業の仕組みもまるで知りませんでした。
過去のしがらみも全くなかったため、その面では業務改善には役立ちました。
最も痛感したのは、管理職は本当に責任を持つということ。当たり前なのですが、実際に直面したときはカルチャーショックでした。
朝令暮改は恐れない
就任数日後に開発現品会議がありました。開発成果が本来の製品企画と目標仕様を実現しているかどうかの判定会議です。
議事内容はサッパリわからず、皆さんの仕事ぶりにひたすら感心して聞いていたら、最後に「それでは開発責任課長の判定お願いします」と来た。
誰も助け船を出してくれる気配なし。要は、正解不正解にかかわらず「あなたの一言で明日からみんながどっちに向かって走るか決まるのだぞ」ということです。
ここで学んだのが「時に応じて明確な判断を示すが、朝令暮改は恐れない」ということ。
結論を出すべき時にはたとえ迷いがあっても是非を明確にする。ただし判断の間違いに気づいたら直ちに認め、修正するということです。
部下には「長嶋茂雄」で接する
組織管理も規模が違います。研究所時代は若手の面倒を見るにしても数人でしたが、設計課長時代には何十人も面倒をみることになりました。
ともかく機嫌よく働いてもらうしかないので、ポジティブ思考に努めるしかないのですが、意外と難しく、どうしても小言くさくなる。
当時の上司である山本修開発部長(故人)に最初に言われたのが、「おまえには理はあるが情がない、部下はしぶしぶ付いてくるだけで、本気で付いてこない」。
山本部長はいわゆるおっかない上司でしたが、それとなく情でフォローするところもありました。
自分なりに工夫したのは、長嶋茂雄になること。小耳に挟んだ話なのですが、大投手の剛球を打者がホームランにした時、並みの解説者は大投手の油断を責めるのですが、長嶋茂雄は必ず打者を褒める。
この姿勢を真似しましたが、うまくいったかどうかは当時の部下に聞いてみたいところ。
(構成・編集デスク 曽根勇也)
小平紀生(こだいら・のりお)1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。※本記事は設備材やFA(ファクトリーオートメーション=工場の自動化)の専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。
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