世界の猛者。ABBが食品に注力するワケ【その1】/ABB中島秀一郎ロボティクス事業部長
再現率が高いシミュレーションソフトも強み
――ユーザーへの提案で心がける点は。 提案する際には①シンプルなシステム②人との協働③デジタル技術の活用――の3点が大切です。当社が提供するロボットの動作シミュレーションソフト「RobotStudio(ロボットスタジオ)」を使えば、現実に近い形でシミュレーションできます。一般的なシミュレーションソフトでは、仮想空間のロボットと現実のロボットで異なる動作プログラムを使う場合がほとんどです。その場合、実機はシミュレーション上の動きを完全には再現しきれません。一方でロボットスタジオは、実際のロボットコントローラーと同じ演算方法で現実の動作プログラムを計算し、仮想空間上のロボットを動かします。実機も仮想空間上のロボットも同じ動作プログラムに基づくため、シミュレーション結果を現実でもほぼ100%再現できます。 ――ほぼ100%! すごいですね。 もちろん仮想空間と現場の環境では異なる部分もあるので、実機での調整作業は必要です。付加機能を使うとロボット以外の動きも再現できます。例えば持ち上げ作業(ピッキング)では搬送の対象物や、その対象物をロボットの近くまで運んでくるコンベヤーなどもシミュレーション上に設置できます。
――周辺装置も再現できる。 作業現場ではピッキングする対象物が等間隔には流れてきません。むしろ常に不均等でしょう。対象物が均等に流れてくる場合は想定するロボットで処理しきれるか容易に判断できますが、不均等の場合は不均等さの程度によっても処理できる個数が変わるので、判断が難しかった。ロボットスタジオはその不均等さを業界で初めて表現できたシミュレーションソフトです。不均等に流れる対象物をシミュレーション上でどれだけピッキングできるかが分かれば、実際にロボットが対応できる数量も分かります。今までは経験や勘に頼らざるを得なかったそういったロボットの想定処理能力について、ロボットスタジオを使えば根拠をもって示せるということです。当然、作業のサイクルタイムも計算できます。 ――その他には。 付加機能「SafeMove 2(セーフ・ムーブ・ツー)」を使えば安全機能のシミュレーションもできます。ロボットへの人の接近をセンサーが感知し、ロボットの動作が遅くなることまでシミュレーションできます。人が周囲で作業する前提で作られた協働ロボットでなく、一般的な産業用ロボットでも、人が近づいたことをセンサーで感知し、動作が遅くなったり止まる機能があれば、安全柵なしに使用できる場合があります。協働ロボットを使用しなくても人とロボットがある程度協働できる環境をシミュレーション上で構築でき、現実の作業空間に反映できます。 ――幅広くシミュレーションできる。 仮想空間で詳細まで条件を突き詰めることで、よりシンプルなロボットシステムを構築できます。事前のシミュレーションでロボットシステム構築にかかる費用の概算やその導入効果の検証も可能です。現場でロボットシステムを組み上げる際に調整する手間が減り、SIerの負荷が大幅に減らせると考えています。