日本と次世代機作りたい/エアバス・ジャパン ステファン・ジヌー社長
求められるイノベーション
――製造の現状と課題を教えてください。 コロナ禍でも生産のペースはあまり変えませんでした。一度ペースを落とすと、調達網の調整を含め、戻すのに1年から1年半かかるからです。実際、航空機業界は強い回復力を示しており、23年には短中距離機はコロナ禍前の水準に、長距離機も25年には戻るとみています。経済の回復に合わせて古い機種の代替需要が高まりますし、特に脱炭素の動きが活発化するとみています。SAFは早い段階で脱炭素に貢献するでしょうが、SAFのみでは不十分です。一方、水素航空機はエンジン周りの技術はかなり確立されているのですが、軽くて容量が大きい燃料であるため、例えば燃料タンクをどう設計するか、といった課題があります。しかし、どちらかと言うと、大きな課題は各空港での水素インフラの整備や、そもそも水素をどうやって生産するか、といったところにあります。そこで4月12日に水素ビジネスで世界をリードする川崎重工業と水素利用促進に関する覚書を交わしました。今後は協力して政策提言などもしたいと考えています。35年までには水素によるゼロエミッション(CO2排出量ゼロ)機を市場投入する計画です。安全基準などは今までよりも高めねばなりませんから、5年先といった短期的な視点ではなく10年以上先を目標に置いています。 ――今後求められる技術とは。 一言で言えばイノベーションです。水素機の先の電動機まで見据えて、従来の発想を超えねばなりません。その開発の主要拠点の一つが日本になるとみています。わが社はベンチャー企業にも積極投資をしていて、モビリティー(移動に関連する手段や機器)、セキュリティー、将来の革新的航空機などが対象です。既存事業に適用できるか分からなくても新技術の発想を持っている会社とは手を組み、一緒に利用法を考えたいです。根底にあるのは「世界初」を重視する社の精神です。日本の優れた技術を世界に発信したいと考えています。
多くの企業にサプライチェーンに参画してほしい
――ジヌー社長は日本のサプライヤーの開拓を重視されています。 あまり知られていませんが、近年は日本がエアバスにとって非常に大きな調達国となっており、平均して年間10億ドル(約1300億円)以上は調達しています。コロナ禍で20年は少し落ちましたが21年はかなり回復していますし、今後も伸びるでしょう。日本の高い技術は世界中で認められていますし、品質管理や納期遵守などを含め、本当に信頼がおける国と言えます。私は以前ヘリコプター事業を担当していて、そのときから日本の重工各社とは深い付き合いをしてきましたので、個人的にも日本のレベルの高さは理解してます。経済産業省やフランス政府の後押しもあり、日仏で協力しよう、との機運が高まっています。 ――日本の既存サプライヤー、将来のサプライヤーに求めることは。 もっと多くの企業にエアバスのサプライチェーンに参画してほしいですし、その思いは10年に社長に就任したときから全く変わっていません。求めるのは、やはり独自技術です。航空機産業はグローバルビジネスですから、他社ではできない独自技術を持っていることが何よりも重要です。そこに日本企業が従来持っている真面目さ、器用さ、品質管理能力などが加われば言うことはありません。英語力を含めた交渉能力も高めてほしいです。ティア1(一次サプライヤー)だけでなくティア2でも3でもいい。中小企業も大歓迎です。すでに何社も実績があります。
――日本には工作機械やロボットなどで世界をリードするFAメーカーがたくさんあります。 航空機は、自動車に比べれば生産台数が圧倒的に少ないため自動化が遅れています。この大きな課題に一緒に取り組んでくれるFAメーカーを求めています。例えば、A320の最終組み立て工程はかなり自動化されていて、8台のロボットが1100~2400の穴を部品に開けて、その後12台の7軸ロボットで3000個ものリベットを打ちます。日本のFA産業は世界で最も優れていますので共にこうした課題解決に取り組みたいですし、そういう機会は今後どんどん増えると期待しています。日本企業と手を組んで一緒に次世代航空機を作りたいですね。
(月刊生産財マーケティング編集長 八角秀) ※ロボットダイジェスト編集長 兼任
Stephane Ginoux(ステファン・ジヌー) 日仏間の政府関連の要職を歴任後、1996年ユーロコプター駐日副代表、97年同代表。2010年から現職。フランス政府貿易アドバイザー、在日欧州ビジネス協会の航空宇宙防衛委員長など公職多数。フランス・ドフィーヌ大学経済学部卒業、フランス国立東洋言語文化大学院、INSEAD修了。1967年生まれ。フランス・イヨーヌ県出身。