[SIerを訪ねてvol.61]“営業しないSIer”が選ばれる理由とは/臼田精工
臼田精工(岐阜県関市、臼田幸治社長)はアルミダイカスト周辺の自動化設備を得意とするシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)。同社は20年以上にわたり、ファナック製ロボットなどを使い、業種や企業規模を問わず自動化を支援してきた。臼田社長は「わが社は営業活動を一切しない。それでも仕事があるのはお客さまとの強い信頼関係があるから」と語る。
「一人一種目」の選手はいない
臼田精工は、溶かしたアルミ合金を金型に流し込んで成形するアルミダイカスト周辺の自動化設備を得意とするSIerで、離型材のスプレー塗布から成形品の取り出し、トリミングプレスや返却材投入など幅広く自動化する。金属部品加工を祖業とする同社は、システムの構想設計から機械設計、電気設計に加え、加工から組み立て、据え付けまで自社で一貫して対応できる。
注目すべきは、その現場力。現場に立つ8人のベテラン従業員はいずれも複数工程を担当できる多能工だ。少数精鋭ゆえに業務に偏りが出ても柔軟に配置転換できるよう、同社は職人の多能工化に早くから取り組んできた。
臼田社長は「わが社には『一人一種目』の選手はいない。最初は加工から始めて、次は組み立て、その後設計に回すなど、本人の得意領域を見定めながら育てている。その結果、設計と加工ができる従業員や、電気配線と組み立てができる従業員など、多能工化が進んだ」と話す。さらに「部品加工や組み立てを理解した人間が設計も担うことで、公差を過度に厳しく設定して加工コストを押し上げるといった事態を防げる」とも強調する。
ファナック製ロボットのスペシャリスト
同社は20年以上にわたり、ファナック製ロボットを使い、水栓関連や弱電関連など、業種や企業規模を問わず自動化を支援してきた。こうした豊富な実績が評価され、5年前にはファナックが日本国内で活躍するロボットSIerを紹介する「ファナックロボットシステムインテグレータサイト」にも登録された。
臼田社長は「わが社はファナック製ロボットのスペシャリストと自負している。成形品や被加工物(ワーク)の供給から排出、搬送、組み立てに至るまで、依頼があれば何でも自動化する」と胸を張る。
また臼田精工では、ロボットの教示作業に必要な安全知識などを教える「産業用ロボット特別教育」を実施できる。ロボットメーカー主催の特別教育は人気で予約しづらい上、デモ用のロボットを使うために「実用性に欠ける」との声が多かったという。そこで同社は、顧客に対して納入前の実機を使ってティーチング(教示作業)やプログラミングなどを指導するサービスを有料で提供する。これで、顧客は導入後すぐに現場での運用が可能となり、トラブルが発生した際も臨機応変に対処できるようになる。臼田社長は「講師の出張も可能なため、遠方の企業は複数人を講習に派遣する手間やコストを抑えられる」と強調する。
他社製設備までも
同社は他のSIerが構築した自動化装置やロボットシステムの改造や修理、メンテナンスも請け負う。「製造元が既に廃業している場合や設計データの紛失といった理由で他社から修理を断られたお客さまが、最後のとりでとしてわが社に依頼するケースが多い。高いスキルとノウハウが必要な作業だが、困っているお客さまを見捨てるわけにはいかない」と臼田社長は熱く語る。
さらに、自社製設備についても、設計に使用するCADソフトウエアを社内で統一し、全ての設計データを一元管理。同社は多能工化が進んでいるため、修理の依頼があればどの現場担当者でも図面を参照し、迅速に対応できる体制が構築できている。こうした顧客に寄り添い続ける姿勢が評価され、リピート受注をはじめ紹介や口コミを中心とした引き合いも多いという。
「わが社は営業活動を一切しない。それでも仕事があるのは、日頃からお客さまの困り事に真摯(しんし)に向き合い、細かなケアを続けることで、強い信頼関係を築けているから。『頼んで良かった』と感じてもらえるよう、今後もお客さまの困り事を解決していく」と臼田社長は力を込める。
(ロボットダイジェスト編集部 山中寛貴)