生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2019.12.02

インタビュー

[特集 国際ロボット展vol.2]アプリ開発、育成など続々/安川電機 津田純嗣会長

産業用ロボットの研究開発や導入の環境は目まぐるしく変化している。大手ロボットメーカーの安川電機は、人工知能(AI)やデジタルツインなどの最新技術をロボットやアプリケーション(使い方)の開発に生かし、ユーザーの人材育成や技術支援にも取り組む。中小企業がロボットを導入しやすい環境を作りつつ、メーカーとして新たな領域で市場を開拓する体制を整える。

中長期では心配なし

――産ロボの市場環境の現状は。

 厳しいですね。ただ、そもそも厳しくなるとの予測もありました。グローバルでの年間導入台数は2017年に40万台に達しましたが、その時で前年比32%も伸びたので、18年は横ばいだろうと見ていました。それでも18年は42万2000台で6%増えたので、19年は微増か微減と見ていましたが、一転して厳しくなる見込みです。

――19年が厳しい理由は。

 ロボットの最大のユーザー業界は自動車で、次いでエレクトロニクスですが、その両方が落ち込んだことが大きい。自動車業界の投資には増産とモデルチェンジの2つの理由がありますが、時期がモデルチェンジの狭間だったうえに、ここ数年続いた増産投資もほぼ終わりました。エレクトロニクスのうちスマートフォン関連も、新機種の量産が遅れました。そこに米中貿易摩擦の影響が加わった形です。

――安川電機の現況は。

 予想以上に需要が落ち込んだことで在庫が増えましたが、ある程度の在庫は調整でき、一旦小康状態に入ったと見ています。今は伸び出すタイミングを待っている状況です。

――今後の見通しは。

 足元でも、増産はともかく自動化に対する意欲は予想以上に強い。ロボットがピッキングやパッキング、パレタイジングなど物流の領域でも、ごく普通に使われるようになったことが要因です。落ち込みが一番大きいのは中国ですが、米中貿易摩擦が需要そのものではなく、投資マインドにかなり響いている印象です。政治的な問題が絡むので、いつ戻るか予測するのが難しい。とはいえ今後も次世代通信の5Gやデータセンター関連の需要拡大が確実視されており、中長期的には心配していません。

AI研究に多角的なアプローチ

――ロボット関連の技術開発の状況は。

 テクノロジーの進歩は、劇的ではありませんが着実にロボットを変えてきました。例えばAIでは、画像認識技術が進歩しました。ただし、1つのAIで何でもできるのではなく、AIをコアとしてさまざまなアプリケーションが開発されています。

――AIの研究開発体制は。

 AIを扱う技術者には、三角形を3つに分けた層があると考えています。1層目は技術者というより数学者で、コアとなるAIを研究しています。2層目はアプリケーションを開発するメーカー。3層目はエンドユーザーの生産技術者です。わが社は2番目の層に当たり社内でアプリケーション開発に取り組んでいますが、より広く使えるAIを開発するために、1番目の層にもアプローチしています。斬新な発想が必要なので、わが社の常識にとらわれない社外の企業としてクロスコンパス(東京都中央区、鈴木克信社長)と資本提携し協業しています。

――3番目の層のユーザーの生産技術者の育成も重要です。

 エンドユーザーの生産技術者がAIを扱えるようになれば、ロボット市場の裾野は拡大します。初めてロボットを使う生産技術者にとっても使いやすいアプリケーションの開発を目指しています。アプリケーションはどんどん開発されていて面白い状況ですよ。

――アプリケーションはどう開発していますか。

 少し前までは、実際にロボットを使って実験し、データを収集してAIに取り込み、学習させるのが当たり前でした。最近では、非常に高い精度で物理現象をシミュレーションする「デジタルツイン」という考え方が出てきました。実際に実験しなくてもよく、この手法が一般的になれば学習のスピードが格段に速くなり、現場に合わせたアプリケーション開発が容易になり、従来よりもワンランク高度なことができるようになる。それを楽しみにしています。

TOP