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2019.03.11

連載

[気鋭のロボット研究者vol.5]3Dプリンターを使って開発加速【後編】/立命館大学平井慎一教授

金属製のロボットハンドが多い中、平井慎一教授は樹脂やシリコン製のソフトハンドを研究、開発する。2017年度に研究室に3Dプリンターを導入したことでトライ・アンド・エラーのサイクルが速くなり、開発が進んだ。試行錯誤を経て開発したソフトハンドは実用化も近い。食品分野で広くロボットに適用できれば、需要の安定した市場に進出できる。

型を作りシリコンを成形

指に関節はないが外側にも開く

 平井教授は樹脂やシリコンを使ったロボットのソフトハンドの研究に取り組む。研究の発端は、コンビニエンスストアなどで売られる弁当の箱詰め作業を自動化できないかと考えたことだ。
 平井教授が指導するロボティクス学科では、2017年度に3Dプリンターを導入し、研究に役立てている。ソフトハンドには、3Dプリンターで直接成形するものと、3Dプリンターで型を作りシリコンを流し込んで成形するものの2種類がある。前者は性質の異なる素材を一体成形できるが、3Dプリンターの樹脂は食品への安全性が保証されていない欠点もある。後者は万が一食品に触れても安全で、ある程度量産できるのがメリットだ。

シンプルな構造が大事

平井教授提供

 食品のハンドリングという課題に対し、ソフトハンドという答えにたどり着くまでには試行錯誤があった。ワイヤをワークの底に回し、絞り込んで固定し持ち上げるハンドもその一つ。ハンドリングはできたが、ワイヤが汚れやすく、メンテナンス性に問題があった。平井教授は「構造の複雑なものは、優れていても普及しにくい。構造や制御がシンプルで、メンテナンスしやすいソフトハンドを追求したい」と話す。

 また、「ロボットを一過性のブームで終わらせないためにも、継続的な需要を生み出すことが必要」と語る。食品分野は人の生活に関わるため景気の変動を受けにくく、安定した需要を見込める。ソフトハンドの実用化により、ロボットがより一層普及することが期待される。

――終わり
(ロボットダイジェスト編集部 松川裕希)

平井慎一(ひらい・しんいち)
立命館大学 理工学部 ロボティクス学科 教授 

1987年京都大学大学院工学研究科数理工学専攻博士課程進学。89年7~12月米国マサチューセッツ工科大学客員研究員。90年京都大学大学院工学研究科数理工学専攻博士課程単位取得退学。同年大阪大学工学部電子制御機械工学科助手。91年工学博士。95年助教授。96年立命館大学理工学部ロボティクス学科助教授。2002年教授。03~07年立命館大学理工学部21世紀COE研究専念教員。宮崎県出身の55歳。

※この記事は「月刊生産財マーケティング」2019年3月号に掲載した連載「今に花咲き実を結ぶ」を再編集したものです。

関連記事:[気鋭のロボット研究者vol.5]立命館大学平井慎一教授【前編】

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