[注目製品PickUp! vol.57]剛性か軽さか? 2種類の薄型減速機をAGVに/加茂精工「PSR/PSLシリーズ」
ノンバックラッシを武器に
同社の創業は1980年で、当初は空圧機器の製造や販売がメインだった。87年には歯車の代わりにスチールボールを採用した「ボール減速機」を発売し、減速機事業に乗り出した。「ボール減速機は歯車のかみ合いではなくボールの転がりを利用して動力を伝達するため、バックラッシ(歯車同士の遊び)がないのが最大の特徴。創業者の今瀬(憲司会長)が世界で初めて開発した」と水野主任は説明する。
その後、98年には主力製品である独自のラック&ピニオンシステム「TCGシリーズ」を市場投入。TCGシリーズも歯車を使用せず、ローラーの転がりを利用して回転運動を直線運動に変換するためバックラッシがない。
同社はこれまで「ノンバックラッシ」を武器に業容を広げてきた。しかし、今回紹介する差動減速機のPSRシリーズやPSLシリーズは内歯車とトロコイドギアのかみ合いを利用した構造のため、微小とはいえバックラッシが避けられない。
ノンバックラッシを売りにする同社はなぜ、PSRシリーズやPSLシリーズを開発したのか――?
「薄さ」に商機
「線接触である歯車とは違ってボールは点接触になるため、ボール減速機は一般的な減速機と比べて剛性面に課題があった。より幅広い分野のお客さまにも自社の減速機を使ってもらいたいと考え、ボール減速機より剛性が高い構造である差動減速機の商品化に踏み切った」と片山技術課長は開発の背景を話す。
PSRシリーズやPSLシリーズの減速比の領域はこれまで、遊星歯車機構の減速機が主流だった。遊星歯車機構とは内歯車と太陽歯車、遊星歯車で構成されており、中心部の太陽歯車の周囲を複数の遊星歯車が自転しながら公転することで動力を伝達する仕組みだ。
だが、遊星歯車機構だと構造上、薄型にするのが難しいという。そのため、同社は「薄さ」という点に商機を見いだし、薄くてコンパクトな差動減速機として2016年にPSRシリーズを市場投入した。差動減速機の開発にはTCGシリーズで培ったトロコイドギアの設計技術や、ボール減速機で培った高硬度鋼の切削加工技術などを生かした。
PSRシリーズを展示会や代理店経由で顧客に広くPRするうち、AGVメーカーなどから軽量化の要望を受けた。こうした顧客ニーズを取り入れ、差動減速機の第二弾として20年に軽量タイプのPSLシリーズも発売した。
片山技術課長は「軽量化のために各部品を薄肉化する必要があったが、こうした薄肉の部品を高精度に切削加工する技術を確立するのが難しかった。試作を何回も重ね、従来比で約30%の軽量化を実現した」と振り返る。
AGVなどの需要拡大と合わせ、両シリーズとも徐々に認知度が高まっているという。「案件の数は多く、新規の引き合いをいただく機会も増えた」と水野主任。今後も両シリーズのPRを進めると同時に、特定の用途に特化したタイプの差動減速機のラインアップ拡張にも取り組みたい考えだ。
(ロボットダイジェスト編集部 桑崎厚史)