2019.09.13
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[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.6]40歳で突然の異動、事業部門の管理職に【後編】/小平紀生

素材から消費者までの物流におけるロボット応用のイメージ

 パレタイジング専用ロボットを製品化した頃から、「高速化競争」が勃発しました。

 コストを掛けずにロボットを軽量化することと、トルクの大きなモーターを使えるようにするのが常とう手段ですが、もちろんそれだけでは競争に勝てません。

 荷物を運んでいない時は負荷が軽いので、その時だけモーターの加減速を大きくするような制御を採用。他にもハンドの開閉時間を短縮したり、パレットのレイアウトを工夫したりと、結構な知恵比べでした。

 ただし、SIerから「コンベヤーが追いつかないような速度でロボットが動くことを自慢されても、ありがたくない」との指摘もありました。実現するシステムの価値は、ロボットの性能だけでは決まらないことにも気づかされました。

インテグレーションを経験

90年代以降、急拡大した液晶市場

 液晶搬送はクリーンルーム仕様のロボットです。稲沢製作所ではかつて、自社の半導体工場の搬送系を一手に引き受けていた実績がありましたので、技術には全く不安はありませんでした。

 問題は、1990年代から2000年代にかけて、ガラス基板が一気に薄くなって大型化したことでした。

 1mサイズで厚みが0.7mmしかないようなガラスは、もちろん人が運べるような代物ではありませんので、ロボットが必須でした。

ガラス基板用の屈伸型ロボット

 1m級のガラス基板に特化した特殊な屈伸型ロボットを公開したのが1990年代半ばのこと。

 ロボットを液晶メーカーや液晶の製造装置メーカーが購入してくれるうちは良かったのですが、誰も経験したことがない大きくて高価なガラスになると、リスクが高すぎてシステム構築を誰も引き受けなくなります。

 そのため、三菱電機でシステムまで手掛けることになりましたが、利益は出ず事業としては失敗でした。

 もっとも自分でシステムインテグレーションまで経験したことは貴重な経験にはなりました。

「もう戻る気はない」

 数年のうちに、以前研究職だった痕跡はなくなり、すっかり事業部門になじんでいたと思います。

 片時も気を抜けないビジネスの緊張感が自分には合っていたようです。

 数年後の研究所からのヒアリングには「もう戻る気はない」と回答し、引っ越す気が全くなかった関西人の娘たちも、1994年の新学期からしぶしぶですが愛知県の学校に転校してきました。

 

――終わり

(構成・編集デスク 曽根勇也)

 

小平紀生(こだいら・のりお)1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、67歳。※本記事は設備材やFA(ファクトリーオートメーション=工場の自動化)の専門誌「月刊生産財マーケティング」でもお読みいただけます。

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