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2019.12.02

[特集 国際ロボット展vol.3]AIやIoTを実装、使いやすさ意識の高度な技術/ファナック

ファナックでは、モノのインターネット(IoT)システム「FIELD system(フィールドシステム)」や人工知能(AI)技術を駆使し、高度な技術を用いながらロボットの使いやすさを探求している。しかし「技術の追求自体が開発目的となるような、自己満足の開発に陥らないようにしたい。現場視点で使いやすいと感じられるような機能、システムを実現する。その実現手段の一つとして、技術を追求している」と稲葉清典専務は語る。「2019国際ロボット展」(iREX2019)でもこうした現場で使える最新技術を披露する計画だ。

中長期で伸びる産ロボ

 米中貿易摩擦の影響で昨年後半からロボット業界全体が減速した。ファナックも例外ではなく、足元での受注は伸び悩むが「中長期的に見れば産業用ロボットが使われる分野はさらに広がる。将来、出荷台数が増加するのは間違いない」と稲葉清典専務は言う。

 同社は山梨県忍野村の本社工場に加え、茨城県筑西市の筑波工場(2区)でもロボットを生産する。筑波工場の生産力増強を順次進めており、本社工場と合わせて月7000台程度の生産力を、今後1万1000台まで引き上げる。「ロボットの需要全体が減少する中でも、多様な産業が含まれる一般産業向けは悪くない」と稲葉専務は語る。

 まだまだ全体に占める比率は低いが、協働タイプの「CRシリーズ」(緑のロボット)の実績も少しずつ伸びる。台車に載せて移動可能にした協働ロボットも、実際の導入事例が出始めた。
 金型やFA機器部品などのある中小メーカーでは、台車に載せた緑のロボットを導入し、フィールドシステムでロボット、研削盤、測定器などをつないだ。同システムのアプリ(応用ソフトウエア)を用い、自動化だけでなく、加工後の測定結果を機械にフィードバックすることで、不良品が出荷されないような仕組みになっている。

 「従来型のロボットを使用するためのスペースが確保できなかった加工現場で、協働ロボットの自動化システムを柔軟に運用していただいたケース。展示会だけでなく、実際の現場において顧客から価値を感じていただけたことを嬉しく思う」(稲葉専務)。

教示や立ち上げも簡単に

 ロボットではユーザー自身がシステムの立ち上げをするケースも少しずつ増加している。システムの立ち上げやすさはより重要になってきた。ファナックは機械加工分野の自動化では、導入しやすいパッケージQSSR(Quick & Simple Start-up of Robotization)を推進してきた。具体的な展示品は検討中だが、「2019国際ロボット展」(iREX2019)でも使いやすさ、立ち上げやすさを意識したシステムを展示する予定だ。

 例えば、自社の「新商品発表展示会」で展示した「自動経路生成」の機能がある。コンテナ内のばら積みされた物をハンドリングする場合、通常はビジョンセンサーで検出した対象物の位置に基づいて、周辺機器と干渉のない経路を教示(ティーチング)する必要があり、技術や工数が要求される。しかし、この機能を用いると、対象物の把持位置の情報をもとに、干渉を避けた最適な経路が自動生成される。途中の動作経路を教示する必要がないため、細かい教示作業は不要だ。

AIにより金属光沢があってもナットの有無を判別できる

 ビジョンセンサーの開発、使いやすさの向上にも力を入れる。ファナックは今年、従来よりも広い範囲を一度に見られる3次元ビジョンセンサーの新製品「3DV/600」を発売した。同製品を使った小物の取り出しシステムを「FOOMA JAPAN」(国際食品工業展)などさまざまなところで展示する。

 使いやすさの向上では、画像解析で良否判定をする機能に機械学習を応用する。簡単な良否判定であっても、従来のシステムでは対象物が教示モデルと一致していないと、「否」と判断してしまう。そのため、金属光沢などの影響で正確に判定できない場合では、照明環境や教示モデルの見直しなどの専門的な調整が必要だった。機械学習を使ったシステムでは人の感覚で判断したサンプルを教え込むことにより、教示モデルに完全には合致しなくても「良否のどちらに近いか」で判断できるようにした。この機能により、より簡単な調整で良否判定が使用可能になる。

 また、深層学習理論を用いた「AI バラ積みアノテーション教示」機能も開発中だ。ばら積みピッキング向けの機能で、人が直感的に理解している取りやすい順序をロボットに直接教え込む。「この場合取りやすいのはこれ」と30枚くらいの画像に対して取りやすい位置をオペレーターが教え込めば、オペレーターの取り方に近くなる。「人からロボットへのスキルトランスファー(技能移転)の試みの1つ」と稲葉専務は言う。

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